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コレクション: 松平文庫

温古集 五巻 - 翻刻

温古集 五巻 - ページ 13

ページ: 13

翻刻

【左丁上段】 ○足羽川之増水 一昨日/午後(ごゞ)の雨量(うりやう)はなか〳〵に劇(はげ)しく 忽(たちま)ち川々(かわ〳〵)満水(まんすい)ししばしの間(あひだ)とおもひしも足羽川(あすはがわ)のごとき は岸(きし)を噬(か)み堤(つゝみ)を蹴(け)り/幸橋以東(さゐわひばしゐとう)に繋(つな)ぎある数多(あまた)の材木(ざいもく)は みなかの繋綱(つなぎつな)を離(はな)れて浮(う)きつ沈(しづ)みつ押(お)し流(なが)さるゝにスワ とて警察署(けいさつしよ)よりは同夜(どうや)十二/時頃(じごろ)より高張提燈(たかはりてうちん)を出(いだ)し査公(さこう) の指揮(さしづ)に浜方(はまかた)二十人ばかり仲仕(なかし)二十人ばかりいづれも小 舟(ぶね)に乗組(のりく)みて急流(きうりう)を右(みぎ)に左(ひだり)に乗(の)り廻(ま)はし昨朝(さくてう)までに九十(つく) 九橋辺(もばしへん)にて引(ひ)き揚(あ)げしは桃畠(もゝばたけ)の方(かた)へ四十三本/北河原(きたかはら)の方(かた) へ二十本にして猶(な)ほ九十九/橋(ばし)の芥除杭(ごみよけぐひ)にかゝりびり〳〵 橋(はし)の妨(さまた)げ為(な)さんと横(よこた)はり居(ゐ)し大(たい)の材木五本は午前(ごぜん)の内(うち)に 引(ひ)き揚(あ)げたりと云(ゐ)ふ一寸(ちよつ)としてもかく水(みづ)の出(で)るには困(こま)つ たものと沿川(かわつゝき)の人々(ひと〴〵)は嘆息(たんそく)しあへり ○増水注進 前項次号(ぜんかうじがう)に悉(くは)しくと書(か)き終(おは)るところへサア 大変々々(たいへん 〳〵 )と探訪員(たんばういん)の注進(ちうしん)は外にはあらで出水(みづ)の景況(けいきやう)足羽(あしば) 川(かは)出水(みづ)溢(あふ)れて石場畑方(いしばはたかた)は茄子(なす)も木瓜(きうり)も不残(のこらず)濁水(だくすい)の底(そこ)にな り平一面(ひらいちめん)の海同様(うみどうやう)にて元浜町裏通(もとはまゝちうらとほ)りより元宇治田原辺(もとうぢたはらへん)は すべて溢水(いつすい)膝切(ひざきり)を浸(ひた)し既(すで)に九十九橋(つくもばし)の水標例(すゐへうれい)の半切(はんぎり)を出(いだ) さんとするに垂(なんな)んたりこは昨夕(さくゆう)七/時頃(じごろ)の事(こと)になんある 【左丁下段】 ○暴風強雨 そもこの回(たび)の雨(あめ)は去る三十一日に始(は)じまり 初(はじ)めはさして劇(はげ)しくも降(ふ)らさりしがたゞおやみなく降(ふ)り しきり翌(よく)一日の朝(あさ)よりしておひ〳〵に強雨(きやうう)と為(な)り正午頃 にては暴風(ばうふう)さへ吹き加へり気象台(きしやうだい)よりは北風強かる可き 旨の電報その筋へ到達(とうだつ)し家々の晴雨計(せいうけい)も恐る可き風雨の 現象(げんじやう)を示めせしにぞいづれも安き心の無きのみかわ川筋 辺の家々にては浸水(しんすゐ)の覚悟にてかの用意(やうゐ)にはとりかゝり たるが風雨は愈/劇(はげ)しく夜に入りては樹木(じゆもく)も抜げんばかり におもわれ足羽川の如きはすさましき勢(いきほ)ひをもて増水し はじめ橋々/防水(ぼうすい)の準備も風雨のうちにそれ〳〵為し始(はじ)め たり ○増水の現状 さて足羽川の水いかにもすさましくこん とは三大橋も迚(とて)も無難には過(す)ぎましとおもひし折柄(おりから)九十 九橋辺/俄(にわか)に退(ひ)きしほのたち橋々のおもりにと出だす半ぎ りに増しの懸念(けんねん)は無くてやむの有様(ありさま)と為りしは不思議(ふしぎ)々 々々とこの辺の人の怪(あやし)みしも道理なりかや足羽川上流勝 見出村の一軒茶屋と西潟との間に於て四十間余の堤防破 壊せしにぞなじかわ以てたまるべき瀧津瀬の勢ひにて奔 流/怒瀉轟然(どしやごうぜん)白波を躍(おど)らしつゝ福井市街をさして馳(は)せ来り