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【右丁上段】
○堤防破壊人家漂流 当市八幡口なる明里の堤防三ヶ所
破壊(はくわい)し人家四戸 漂流(へうりう)し橋南立矢口小畑村の堤防十五間破
壊しかの下手なる下野村に於て人家二戸漂流したれども
何れも未だかの詳細(しやうさい)を知るに由なく猶ほこの他に漂流多
かりし由なれば次号を以て委(くは)しくすべし
○溢水の浸さゝる町 今回(こんど)の溢水(いつすい)は九十九橋南よりは橋
北もっとも甚(はか〴〵)しき中にも溢水の浸(ひた)さるゝは中筋(なかすじ)にては元京
町本町東西魚町一乗町片側長者町上呉服町板屋町西側に
ては元木町山町𪉩町夷町靑屋町西山町木田地方にては元
石坂町より東二三ヶ町の各町にてありし嗚呼(あゝ)
○人家傾敗 當市元餌指町にては溢水(いつすい)直(たゞち)に押(お)しかけしに
付き三戸各々壹尺余りかたより元加賀口の提灯屋(てうちんや)某(それ)の家
は爲めに傾(かたむ)き鵜匠町の福某の家は見るかげもなく破壊(はくわひ)し
たり然(さ)れども別(べつ)に怪我等(けがとう)は無(な)かりしよし
○漂流溺死 一昨二日幸橋邊にて一 隻(せき)の小舟 轉覆(てんぷく)し乗人
二名 漂流(へうりう)したり然(しか)れともなか〳〵泳水術(ゑいすいじゆつ)には熟錬(じゆくれん)したる
ものと見へ逆卷(さかま)く波(なみ)を押(お)し切つて一名は九十九橋にて揚(あが)
り一名は桃畠(もゝばたけ)にて揚(あが)り一命(いのち)に別條(べつじやう)なかりしも衣類(ゐるい)及び小
舟は悉皆(しつかい)流(なが)したりとは不幸中(ふこうちう)の幸いなりしがこゝに昨朝八
【右丁下段】
軒町に住(すま)はるゝ或(あ)る貴紳(きしん)の令息(れいそく)(七八年)には寓前(ぐうぜん)の上水
に渡(わた)せる橋邊にあゆまるゝとおもひし際(さい)あやまつて足(あし)ふ
み外(はづ)し上水へ陥(はま)られしとは神(かみ)ならぬ身の家眷(かけん)には露知(つゆし)ら
れずいままて此處(こゝ)にすがたの見へしにかげだに無きは不(ふ)
審(しん)なり若(も)しや上水へはまりはせぬかとそれより大騒(おゝさわ)ぎと
爲(な)りその川筋(かわすじ)を探(さぐ)られしに一 時間程(ぢかんほど)を經てお泉水町なる
原泉小學校の邊(へん)にて發見(はつけん)せられしも無慘(むざん)や既(すで)にこと切れて
再び逢(あ)はれぬ別(わか)れと爲(な)りしと云へり折角(せつかく)の男兒(おのこ)を空(むな)しく
非期(ひご)に失はれし親御(おやご)の心(こゝろ)嘸々(さぞ〳〵)おしはかられて涙(なみだ)のこぼ
るゝなり
○市中各町の落橋 元大名町 通(とお)りなる新道(しんみち)の中にて小橋
三ヶ所元御使番町龜屋町のうちにて五ヶ所内一ヶ所は半(はん)
落(おち)寶永上町のうちにて二ヶ所 其他(そのた)各所(かくしよ)に於(おゐ)て小橋の落(お)ち
たるヶ所あるも未(ま)だその細詳(さいしやう)を得ず何れ次号に委(くわし)くすべ
し
○僵樹倒木 屋を破ぶり樹を抜(ぬ)きしは寧(む)しろ大風よりは
大水の爲めに多く則ち根ばりの少き杏ならび梅李の類(たぐ)ひ
には水に浸たりし上風に吹かれしものなれば随分とも市
中おしなべて見れは尠(すくな)からざりしよし但し郡村の分は未
詳
【左丁上段】
○【以下、綴代にて一行読めず】
五厘位が七錢 鯖(さば)一本一銭位が二銭に騰貴(とうき)し靑物は木瓜百
本に付八銭位なりしが俄然十本四銭となり茄子は僅か
に昨朝七ッ出でたれとも何とも角とも定價なし抑も今回
の畑塲溢水に石方は無量(むりやう)の害(がい)を蒙(かふむ)りたれは木瓜茄子等は
先づ本年は之れ限り面の見納め否市へ持ち出づるは少な
かるべしと云へり
○見舞人の東奔西馳 こんどの大水は福井市街中央をき
りて北の部分が尤も困難(こんなん)を極(きわ)めしなれば握飯又たは燒(た)き
出しを爲して重に詰め煑(に)しめ、棒まき、燒き豆腐油揚、鮨
なんとを添(そ)へ水を侵(おか)し被害(ひがい)の家々持運ぶもの引きもきら
す東西を馳(は)せ違(ちが)ひ酒樽も五つ六つ宛繋ぎて高くさしあげ
【続き不明】
○城の端新屋敷下町百軒長屋 去る一日の夜(よ)おひ〳〵に
橋南(きやうなん)毛矢邊(けやへん)に水嵩(みづかさ)の増(ま)すも城(じやう)の端(はし)などは近頃(ちかごろ)水(みづ)の浸(つ)きし
こと稀(ま)れなれば誰(た)れも寐耳(ねみゝ)に水(みづ)の來(こ)やうとは知(し)らぬもの
から暴風(ぼうふう)猛雨(まうう)を氣(き)にしながら家々(いへ〳〵)ひつそと寐静(ねしづ)まり所謂(いわゆ)
る同夜(どうや)の丑滿(うしみ)つごろ(昔(むかし)なら)一 層(そう)劇(はげ)しき大風(おゝかぜ)か但(たゞ)しは地(ぢ)
震(しん)の揺出(ゆりだ)すのか何(なん)にしても恐(おそ)ろしき響(ひゞ)きのするぞと疑(うたが)ふ
間(ま)もあらばこそ滔々(たう〳〵)として泥水(どろみづ)の床上(しやうじう)に馳上(はせのぼ)るにスワ西(にし)
潟邊(がたへん)の堤防(つゝみ)きれたなり起(お)きね〳〵と狼狽(うろた)へるうち畳(たゝみ)は
濡(ぬ)れて浮(う)きあがり蚊屋(かや)も蒲團(ふとん)も釣(つ)りたまゝ敷(し)いたまゝづ
ぶ濡(ぬ)れにて水中(すいちう)に漂流(たゞよ)ふ有(あ)りさま主人(あるじ)も妻(つま)もどこから手(て)
【左丁下段】
を下さんや帳面籍同箱と早ふ二階へ持ていけ乳兒はどし
たニリヤたまらぬ老母(おかあ)さんそんなことをして居(ゐ)るうち命(いのち)
が危(あやう)いナニ箪笥(たんす)の抽斗(ひきだし)にても出(だ)したい出すにも出さぬに
も火が風(かぜ)で消(き)へて仕舞(しま)ふたソレ椽板(ゑんいた)が浮(う)いたから落(おち)ると
仕方(しかた)が無いと云へる急水(きうすゐ)が十中の八九にてかの辛(か)らく夜(や)
具(ぐ)蒲團(ふとん)を仕舞ひ飯(めし)の一升も燒(た)き一 晝夜位(ちうやぐらゐ)籠城(ろうじやう)するも糧(かて)に
つかへぬ謀(はかりごと)を爲したるは誠(まこと)に僅々の少數なりと云へり
則ち一 体(たい)床上三尺も四尺もあがり軒(のき)へ水の浸たるは僅(わづか)に
一尺位と云ふ《振り仮名:𪉩梅|あんばい》なればその家具(かぐ)家財(かざい)を顧(かへり)みるに遑無(ひまなか)き
は勿論(もちろん)なるが甚(はなはだ)しきは火事に逢(あ)ふたよりは劣(おと)りにて地(ぢ)
ぶくも椽板(ゑんいた)も横木 閾(しきゐ)も盡(こと〴〵)く逆(さか)卷く激波(げきは)に流(なが)されてかの
家 單(たん)に屋根と柱(はしら)を豫(あ)ますのみ迚(とて)もこんどは家と共に流(なが)さ
れて命(いのち)も西の潟へ藻屑(もくず)と爲(な)して仕舞(しま)ふかと覺悟(かくご)はしたれ
と夢(ゆめ)に夢見る惡夢(あくむ)の何故(なにゆへ)覺(さ)めぬから激波(げきは)怒濤(どとう)の上に揖(かぢ)【楫】失(うしなひ)
し捨(すて)小舟 苦艱(くなん)の中に包(つゝ)まれながら猶ほ愚痴(ぐち)を溢(こ)ぼして居
る老人(ろうじん)あり下駄(げた)一足に釜(かま)一つどうぞこうぞ二階(にかい)へ持(もち)てあ
がつたばかり昨夕 喰(た)べたきり未(いま)だに食(しよく)があたらぬから餓(ひも)
じふてどうもならぬせめて飲(の)める清水など一 椀(わん)ありたら
この苦(くる)しみはせぬものをと口説(くど)くも道理(どうり)奔波(ほんぱ)躍浪(やくろう)救舟(すくひぶね)も
達(たつ)する能(あた)はず顔(かほ)を見(み)ながらたゞ聲をかけて辛棒(しんぼう)せよ今に
行くと励(はげ)ますばかり舟の中にありて見るもたゞ涙(なみだ)のみ遥(はる)
かに聞(きこ)へて悲(かな)しげに凄(す)さましきは救(たす)けてくれ今死ぬと叫(さけ)