翻刻
にも簡易(かんい)なるこそ。書作(ふみつく)る者(もの)の功(こう)といはめ。然(しか)りと
いへども俗輩(ぞくはい)には。いさゝか通(つう)じがたきことあり。因(よつ)て
今(いま)この見聞録(けんもんろく)は。文章(ぶんしやう)の繁(しげ)きをいとはず。多(おほ)く
俗談平語(ぞくだんへいご)を雑(まじ)へ。善悪(ぜんあく)邪正(じやしやう)の差別(けぢめ)をとはず。
見聞(みきゝ)のまに〳〵|掲(かゝ)げ出(いだ)し。人毎(ひとごと)心(こゝろ)に掛(かく)べきことを。
専(もつは)らに録(しる)すになん。それ人(ひと)に五気七情(ごきしちじやう)あり。
喜怒哀楽(きどあいらく)の間(あひだ)に於(おい)て。動(やゝも)すれば心(こゝろ)乱(みだ)れ。其(その)
常(つね)を失(うし)なふめり。平生(へいぜい)思(おも)ひを深(ふか)くして。心中(しんちう)
にし感悟(かんご)すれば。凶変(きやうへん)危急(ききふ)の時(とき)に臨(のぞ)み。恩(おん)
を忘(わす)れず義(ぎ)を闕(かゝ)ざるの。物語(ものがたり)をさへ具(つぶさ)に挙(あげ)
て。童蒙(どうもう)稚女(ちぢよ)を励(はげ)ますの。一端(いつたん)とは
なすものならし
于時安政丙辰季夏
晁善漁父題 銀街【角印】