翻刻
同五日
一今朝ハ宝永度の大変筆記に見えしことく一天晴渡り聊も
雲なきにより心元なくおもひの昼頃となりては潮行お
たやかに見へて少しは安気に移りしの七ツ時過となりて
ためしもなき大地震前後おほへす家々将戯倒となる
貴賤逃行人々親子ちり〳〵間もなくして町々より出火尤
下市中斗也又津波と見えて潮押入潮江下地濃人
町新町下前は海と成且潰家に打れ或は焼死も数十人
ありと聞也親は子を呼び子は親を尋ね其叫声夥し
其声を聞ては胸迫り命を削ることく寒夜の船中
老躰難凌訳なれとも寒きともおもはす恐なから
上々様方は何方歟 御立除被遊候御事にや拝承仕度
奉存れとも只奉存と斗也夜中も数度震あれとも
心まとひ度数は覚へさる也此日は上町河原に荒紙祭の
相撲有見物に行し人は無難にて家々に帰りし也
実云予も父子共角力場に在て此災害を免れたり扨地震ハ
震動のことく西より鳴り来て東へふるひ渡りし也子細ハ土蔵
なとの潰れし土煙にや空に立登り雲歟と見ゆる物たん〳
立続吸江渡し場辺迄棚引しを川原にて正敷見たる也
夜中の震軽重八十三度有しといへとも実否はしられす
弘列筆記に宝永地震の日は極暑のこととあれとも此度は
寒暖可記事なし高潮の事も火災の事も下に出せる其
部を見るヘし此夜も月色同前に有しと也
同六日