翻刻
役所に帰り諸帳面等夫々取片付自若として待所に高潮
入来りつれとも御役家の隙に入御蔵には入さりしと也是役
人の当然なから人々の心得に有事也と美談也し
○震後日々津波入来ると云妄説に恐れ仕官の輩も山野に
隠れ日を経れとも帰らす御近習勤は尚更日勤場所は勿論
なるを何レの事をも思はす婦女子のことく惑て勤事を怠りし
様御聞糺ありて追々役を退たる実に面目もなき臣下なり
かゝる時こそ忠情は可抽時なれとおもはる
○震の道に当りたるにや新市町三丁の四辻誠に甚し戌亥なる
道具屋は主従七人《割書:男二人|女五人》や《割書:瞽女一人来り居て即死す凡高知中の盲人|数多ある中に此外に不聞実に天助といふへし》
未申の古手屋は主従六人《割書:男三人|女三人》丑寅なる酒屋は主従四人《割書:男二人|女二人》
辰巳なる薬屋二軒は主従九人《割書:男五人|女四人》潰れ家に打れ都合二十
六人即死す外輪往来の者も数人幷馬一疋打殺されぬ惣て
此辺死人過人多かりしと聞ぬ其後宿業店の家敷の辺にて
夜陰深更におよひ助ヶてよ〳〵と云声ほのかに聞ゆ其声西に
有歟と尋ぬれは又東にある様にて蹤跡はなかりしと其家の手
代より聞たる人語し扨此怪敷事を尋ぬるに通ひ来る
番頭か妻雇れて数日滞留して在しか大震にあひ裏口へ逃
出つらんに土蔵潰れ懸り外輪へ逃出んも女の身にて十方を失
居る中火事となりて焼来りたれは詮方なく盥を冠りて