みんなで翻刻ver1

コレクション: STAGE8

地震記 上 - 翻刻

地震記 上 - ページ 39

ページ: 39

翻刻

〇宿毛主の家臣《割書:《ルビ:竹葉|タケハ》|彦之丞》は高知の邸に在勤す留守又は老母幷妻に  子三人有末子は出生してはつか廿日計なるか妻に乳なけれは  子供残らす引具して貰乳に行し諸事今去冬の大震に逢  直様帰宅もせしに勿論家潰れぬ老母は高年にて手足不叶  なれは埋し事疑なしと隣なる近族某か方に行しに某も  他行して居らされは三人の子を家内に預置身一つに成り宅地に  帰り母を呼へとも土の下にや答すされとも外に走り出べきやう  なけれは只母の安危のみに心を苦しめ津波来らんと人には  叫へとも耳にも不入ひたもの瓦土を取払ひける所に右の近族  外に壱人馳来りとも〳〵仕除て見れは案に違わす母は梁に  敷たり三人互に力を合せ辛ふして引出しけるに腰をは打れ  けれとも一命に支なけれは妻か背負て近山にのかれ介抱せ  しと也今少し遅かりつれは水火の難遁れさる所なるに  此婦か貞操によりて蘇生したりと也去ほとに此女平常孝女  の為いさゝかもあらさりしの誠にかる変に臨んて天性の美  あらはれ高府まても夫か名をも顕しけるは実に貞烈前代  にも比類稀也といふへし