翻刻
江州の水工は二年を経て帰国す仍て此井宅地にほらんと思
者は願出れは御町銀御貸付被仰付年賦払に御取立あり
し也さるによりて年々歳々に掘らせ今新町に何百といふ
数をしらす然るに去大震にも潰れす数十日潮は下知切
戸より押入用水難渋の所尾井の水絶る事なくして去今
の飢を忘れたり是馬詰氏の遠慮にて実に功業莫大と
いふへし宝永の変後祖先達の苦心おもひやられし也
再云馬詰氏壮年の頃より 御供にて東海道中を
せくるゝ毎に江州の毎家尾井ある事を尋し当国の土地と
同しきを察せられて久敷宿望ありしか終に御町の
惣宰とあふかれ為ひ功を遂られしと也他邦水工を
はる〳〵御雇入の後尾井堀ても水湧出ずんはいかゝせん
返々も土相の同脉なる事を知為へる事凡人の所為な
らすと世人の感慨甚しかりし事予か十五歳の時
にて現に覚たりし実に永世の宝といふへし
元禄十ニ年御制札写
覚
一此井溝へけからはしき物はいふに及はす何にても入ましき事
一井溝にて物を洗ましき事
一橋の上にて水汲へからす附水あひ手足を洗ましき事