翻刻
【右】
内々(ない〳〵)に此病あり。されども面(かほ)には紅粉(べにおしろい)を粧(よそほ)ひ外貌(かほかたち)
に【「・」 左ルビ】てはさらに病妓(かさかき)とみえず。まことにばけものと
いふべし。すでんい妖(ばけもの)といふ字(じ)は。夭(わか)き女(おんな)の二字を。一字と
せしなり。豈(あに)おそるべきにあらずや
〇此病の症候(わづらひやう)いくばくといふことなし。はじめは
みな下疳便毒(げかんべんどく)よりおこる。これこの病の苗芽(なへめだし)なり。
古語(こゞ)に苗芽(けうげ)にして去(さら)ざれば。ついには斧柯(おのまさかり)を用ひんと
すといへり。樹木(じゆもく)の類も苗(なへ)のときにはさりやすし。
【左】
大木(たいほく)になりては去(さり)がたきをいふなり。されば下疳(かやく)
便毒(よとね)は痼疾廢人(ほねがらみかたわ)となるの苗芽(なへめだし)なりといおしれて。
良醫(よきいし)を聞(きゝ)たゞして療治をうけ。心(こゝろ)ながく服薬(ふくやく)
すべし。若人(わかうど)はとかににはやくいやさんと速攻(そくこう)のみを
いそげとも。此病にかぎり一朝一夕(いつてふいつせき)にはいへず。てまどる
ものぞかかし。豪家(あきびと)の倉■(くら)を建るがごとくに。日数(ひかず)を
へ(・)ずしては。いゑがたしと心得べし。
〇此病の一名を恥瘡(はぢがさ)といふ。はじめ下疳便毒の