翻刻
【右】
にとばかりげらづゝき。虻(あぶ)もとらず。蜂(はち)もとらぬ醫者
の藥はのむべからず。
〇庸醫(ようい)の藥をふくして後(のぢ)。口中たゞれ。歯牙(はきば)ゆるがば。
輕粉劑(けいふんさい)とこゝろえべし。軽粉は。毒烈(どくれつ)の物。肌表(はだへ)を
乾燥(かんそう)するものゆへ。血液(けつゑき)をかはかし。槁(から)たる木のうるほひ
なきがごとくにて。津液(しんゑき)の流通(るつう)とゞこほり。口(くち)へばかり
出るがゆへに痰嗽(たんそう)をうれへ。はなはだしきは晝夜(ちうや)
涎沫(よだらあは)をはきつゞけ。唾壷(はいふき)を傍(そば)にはなさずくるしむ
【左】
なり。津液(しんゑき)は一身の潤(うるほ)ひにして。化(くわ)して精血(せいけつ)となる
大切のものなり。しかれば庸醫にまかぜ。かゝる峻劇(しゆんげき)の
藥劑(くすり)をのむべからず。もし軽粉入の藥をふくし
口中そんじ。其外いろ〳〵のたゝりをなさば。白梅(むべぼし)を
煎(せん)じてのむべし。或はそれに黒豆(くろまめ)を加入(くわへいる)もよろしき
なり
〇庸醫の中には。前銀(まへがね)とて諸病ともに。藥をあたへぬ
まへに。藥料(かひあわせ)となづけ、金銀をむさぼる惡習(わるきしわざ)あり。