翻刻
【右】
わざは精妙(せいめう)をつくすなり。しかはあれど疾病(やまひ)の
事にいたりては。人ほど愚昧(をろか)なるものはなし。
禽獣(とりけだもの)のたぐひは。巣居(さうきよ)【「スニスムトリ」 左ルビ】知_レ風穴居知_レ雨(かぜをしりけつきよあめをしる)といひ。
牛馬(ぎうば)に護胎(ごたい)【「ハラミテツゝシム」 左ルビ】といふことあり。鷄犬(とりいぬ)の類毒物(るいどくなるもの)はくらはず。
みな己(をのれ)が身命(しんめい)を守(まもる)ことをしれり。人として
大切(たいせつ)の身命をまもることをしらず。飲食女色
に溺(おぼ)れやまひを生(しやう)じ。其(その)うへに庸平(よう)【「ヤブ」 左ルビ】醫(い)【「イシヤ」 左ルビ】にゆだね。
害(わざわい)をまねぎ。天年(てんねん)をたもたずして。夏(なつ)の虫(むし)の
【左】
ともし火に入ごとくに死するを見れば。萬物(ばんもつ)の
霊長(れいちやう)にして。智恵(ちゑ)ありといふのしるしさらになし。
禽獣(きんじう)にはをとりて恥(はづ)べきものなり。天地の間。たゞ
一氣の運行(うんこう)にて。萬物をの〳〵其生(せい)を保(たもつ)ことなり。
此氣は人の目に見えずして。いたらざる所なし。
故に天地の氣(き)に相応(さうをう)する人は。無病長命(むびやうちやうめい)なり。
天地の氣にそむける人は。多病短命(たびやうたんめい)なり。是みな
人間(にんげん)みづから得失(とくしつ)をなすこととこゝろえべし。