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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - ページ 12

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【右頁上段】      預金高 五万四千三百八十七円七十六銭四厘 ○不通電線(ふつうでんせん)の延長  今回の海嘯(つなみ)は陸前、陸中、陸奥三国の東海(とうかい) 岸(がん)一|帯(たい)を荒(あら)したるものにして被害(ひがい)の度|存外(ぞんぐわい)に甚しく未だ詳細(しやうさい)を 知(し)るに由なしと雖も逓信省の当局者(とうきょくしや)が接手(せつしゆ)したる電報に依りて 打算(ださん)するに不通(ふつう)となりたる被害地方(ひがいちほう)の電信線路三箇所にして其 延長大凡そ左の如くなるべしと云ふ    志津川盛間  凡十七里二十一町三十二間    釜石宮古間  凡十三里十七町五十六間    八戸久慈間  凡十三里四十間     合計凡四十四里四町八間     ●海嘯被害見聞録      ●宮城県牡鹿郡     ●鷲神崎 牡鹿郡(をしかぐん)鷲神崎(わしかみざき)にては十五日|午後(ごゞ)八時三十|分頃(ぷんころ)強震(けうしん)あり海上|暗澹(あんたん) として一|大鳴動(だいめいどう)を発せり海嘯(つなみ)は多分(たぶん)此時に於て起(おこ)りしならん此 大鳴動(だいめいどう)の音(おと)は仙台(せんだい)まで聞えたりしと   ●女川 全村(ぜんそん)六十戸の内浸害を被らざるものは僅(わづ)かに十戸、浸害(しんがい)の最も 手痛(ていた)きは小字鷲の神木村八十八氏にして全家|破壊(はくわい)の厄に遇へり 次は同木村八右衛門氏にて氏(し)が家は女川村(めかはむら)中第一堅牢の家屋と 称す而(しか)して此|海嘯(かいせう)の為め前半部を嘗取(なめと)られ跡へ追退(おひの)けらるゝこ と凡そ二|間余(けんよ)為めに後半部の柱(はしら)三本(さんぼん)程中央より折(お)られたり、其 他は浸水(しんすい)され若くは床、壁を洗(あら)ひ去(さ)られたるの外多少の家財(かざい)を 流失(りうしつ)せしに過(す)ぎず 溺死者(できししゃ)は平塚とり(《割書:七十|四》)と呼(よ)ぶ老女にて体躯強健、独居を鷲の神 海浜に構へ、若者(わかもの)の滌ぎ洗濯(せんたく)抔引受けて糊口(ここう)とせし者の由(よし)此婆 【右頁下段】 被害の夜(よ)は夕刻よりの雨模様(あめもよう)とて早く戸(と)を閉ぢ将に床に入らん としける時(とき)大砲(たいほう)の響の如きもの一|発(はつ)二|発(はつ)程海の方に聞へければ 雷にもやと念佛抔唱へ居ける此時早く驟雨の如き音して次は瀑 の如く戸(と)を圧(あつ)し戸内は一|面(めん)の水となりたれば婆は一躍して屋梁 に飛付(とびつ)さ居たるに押寄(おしよ)せたる水勢(みづせい)に後ろの壁の打抜(うちぬ)かるゝと同 時に身(み)も押し流され終(つい)に溺死せるに至(いた)れるなりとぞ其|噛(か)ぢり付 き居しと聞(き)く屋梁には爪(つめ)の痕のまだ生(なま)々しきものありき 之に反(はん)して万死に一生(いつせう)を得しは女川の方にて木村(きむら)とら(《割書:六| 十》)と呼(よ) ぶ老婆(ろうば)なり此婆の家(いへ)は婆が孫兒(まご)忠吉 (《割書:十| 四》)はる(《割書:五| ツ》)の二|人(にん)との詑 住居なり婆は二人の孫(まご)を抱(いだ)き将に寝に就(つ)かんとする時(とき)例の海嘯 に仰天し狼狽(ろうばい)し居る中|水(みづ)はドシ〳〵入り込むにぞ婆はイキナリ 両孫をかゝへ己が首(くび)にカヂリ付(つ)かせ身(み)は飛上(とびあが)りて屋梁にカヂリ 付水を防(ふせ)ぎつゝある間(ま)に水は益々(ます〳〵)漲りてハヤ頤(あご)をぞ浸(ひた)しけるコ ハ叶(かな)はじと思(おも)ふ一刹那天か運(うん)か軽(かろ)き隠居家はフワ〳〵と浮(う)き出 で後辺へ押流(おしなが)さるゝこと二|間余(けんあま)り石の井筒に喰(く)ひ止められ兎角 する間(ま)に水は引きければ婆は大急(おほいそ)ぎに家を飛(と)び出て両孫(れうまご)を引き 壮者にても上(あが)り得ぬ後ろの絶壁に攀じ漸(やうや)くにして老命及両孫を 援け得たりと云(い)ふ 又村の入口に漁舟の三|艘(そう)打(うち)上られて所有主(しょいうぬし)の分明ならざると二 畝五歩|許(はか)りの苗代の滅茶(めちゃ)々々にされたると及一畝五歩弱の麦の 右往左往に打ち拉(ひし)かれ居るとは稍(や)や人目(ひとめ)を惹(ひ)き更に村(むら)に入るに 及んで村|尽(はづ)れの二階(にかい)が三軒迄|床(とこ)を攫(さら)はれ壁の下半部を洗(あら)ひ去ら れたるを見(み)るに及んでは稍(や)や其勢ひの暴(ばう)なるに驚かざる者なし 此海嘯は午後(ごご)八|時(じ)卅分頃に起(おこ)り卅五分にして終結(しうけつ)せるものなる 由|然(さ)れど朝来の雨模様(あめもよう)に怯(を)ぢて皆(みな)早寝(はやね)せし為め稍(や)や不覚(ふかく)を取り し訳(わけ)なりと而して女川(めかは)の損害(そんがい)全額は二千円を下らざるへしとい 【左頁挿絵二枚】 【上題】 女川村被害の惨状 【下題】 雄勝浜宮城集治監出張所