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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - ページ 13

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【上段】       ●雄勝浜 ○雄勝浜の惨状 桃生(もゝのふ)郡雄勝浜は郡中第(ぐんちうだい)一の惨状(さんじやう)を極めたり 一|村(そん)の家屋多くは流失(りうしつ)し破壊し残(のこ)れる家屋とて床板もなく障壁(しやうへき) もなく柱は曲(まが)れるもあり捻(ねぢ)れたるもあり歪(ゆが)めるもあれば折れた るもあり鍋釜(なべかま)の満足せるは僅(わづか)に十五戸のみにて其他(そのた)は箪笥衣類 は勿論(もちろん)塵(ちり)一|本(ほん)だになし死骸(しがい)は波間に漂(た〻よ)ふもあり砂中に埋(うづ)もれる もあり濡(ぬ)れたる衣服を纏(まと)ふて叫(さけ)ぶ孤兒(こじ)もあれば飢(う)えたる腹(はら)を抱 へて徨(さまよ)ふ老人もあり見るとして聞(き)くとして波(なみだ)の種ならぬはなし 生存者(せいぞんしゃ)二三千人は残(のこ)れる家屋に収容(しうよう)し濁水にて玄米(げんまい)を炊きて与(あた) へ居れり此(この)部落(ぶらく)にて最も哀(あは)れなるは荒谷村(あらやむら)にて十六戸の中(うち)の十 三戸|流失(りうしつ)し土までも押流(おしなが)されて地盤を顕(あら)はせりと云ふ 郵便局は悉皆|流失(りうしつ)せられ今は他(た)の家を借りて僅(わづか)に局を開けり、 局長は杉山某と呼び六十|恰好(かつこう)の人なり其長男に勝蔵(かつぞう) (《割書:二十|七 》)なるも のあり語(かた)りて曰く海嘯(かいせう)の夜自分は局の几卓に憑(よ)り書類(しょるい)を検閲し 居たるに訇々(くわう〳〵)響(ひゞき)に驚かされ何事かと窓(まど)を推すの一刹那水は驀(まつし) 地浸(くら)入しけれは卓上に躍(おど)り上り屋梁に取付(とりつ)きたり然(しか)る程に屋根 は水の為(ため)に押し上げられたれば驚(おどろ)きながらも之れに匍匐上(はひあが)り屋 根の流(なが)れ行くまゝに任せけり斯(か)くて漂流(ひやうりう)すること殆んど三時間 ハヤ生たる心地せす只舟(たゞふね)やある、援舟々々と喚(わめ)き立てしも陸上 の喧噪のみ耳(みゝ)に響きて一物も目に見(み)えず、是迄と覚悟(かくご)を極め、 運を天に任(まか)せ、念佛(ねんぶつ)唱(とな)へ居ける時、天恩(てんおん)か佛恵か一|隻(せき)の舟漂ひ 来れり、しめたりな、有難(ありがた)やと之れに乗り移(うつ)り屋根にありし竹 を抜き、辛(から)うして漕(こ)きつゝ|来(きた)る程に海(うみ)の那辺(あなた)にあたりて、助(たす)け て呉れ〳〵と絶え〳〵に呼(よ)ぶ声す、何者(なにもの)ならんと急き舟を廻(まわ)し たるに一|人(にん)の男なり即(すなは)ち引き上けけるに集治監看守部長三山省 之助氏なり氏(し)は引上けられて只「命(いのち)の親(おや)なり」と一声喚ひたるま ゝに打伏(うちふ)しけり、依(よつ)て自分は之を陸(りく)に運ばんとしける時しも又 【下段】 水上に悲鳴(ひめい)の声を聞く因(よつ)て之を援け上(あげ)しに杉山そよ(《割書:二十|三 》)と云(いふ)ふ 女にて湯巻(ゆまき)もなく真(ま)つ裸(はだか)にて漂ひしなり乃ち之に我(わが)衣服(いふく)を脱ぎ 与へて三山氏と共に陸(りく)に近かんとするに屡〻(しば〴〵)波の為めに障へら れ幾度(いくたび)か達せんとして達(たつ)せず力も気根も絶え果(はて)んとしける時援 船来り漸やく上陸(じやうりく)するを得(え)たり而して上陸し見(み)れは家は土蔵納 屋等六|種(しゅ)の家屋は悉皆洗ひ去(さ)られたり、されと家族(かぞく)は皆無事な りし是れ不幸(ふこう)中の幸なり、勝蔵(かつぞう)又曰く当浜中最も気(き)の毒(どく)なるは 皆川虎吉氏の一家なり氏は妻(つま)りつ、娘(むすめ)貞代甥清志の四人暮しな りしか今回の海嘯(かいせう)にて家と人とを合(あは)せて何処の波底にか捲(ま)き込 まれ今に行方(ゆきかた)知(し)れず ○御真影(ごしんえい)並に勅語謄本の奉遷  雄勝(をかつ)十五浜尋常小学校にては 校舎(かうしや)傾斜(けいしや)して柱梁破壊し諸器械(しょきかい)過半(くわはん)海水(かいすゐ)浸潤(しnじゆん)せる間にも拘はら す必死(ひつし)となりて御真影並に勅語謄本を安全(あんぜん)なる場所に奉遷(ほうせん)した りと云(い)ふ至誠(しせい)忠良(ちうりやう)の志(こゝろざし)実に感すへきことにこそ(挿絵参看) ○雄勝(をかつ)集治監(しふじかん)出役所  雄勝の西南端に一|寺(じ)あり天雄寺(てんゆうじ)とい ふ、赤衣(せきい)の人|参差(しんし)として徘徊(はいくわい)す是れ雄勝集治監の避難所(ひなんしょ)なり、囚(しう) 徒(と)三十七人、監守(かんしゅ)八名、茲(こゝ)に宿泊す、監守は総て軽傷を負(お)へり監 守部長は三山省(みやませい)三|氏(し)語(かた)りて曰く本集治監|収(をさ)むる所の囚徒(しうと)総計(そうけい)百 九十五人、監守(かんしゅ)三十四名、署長は中村欣(なかむらきん)一|氏(し)なり扨(さて)十五日の夜(よ)は 余|等(ら)監守(かんしゅ)は監側(かんそく)の合宿所 (独身(どくしん)監守十九名の寄宿所)に在(あ)り中(うち)三 名は外出(ぐわいしゆつ)して在(あ)らず互に公余(こうよ)の清談(せいだん)に打(う)ち寛ぎ居(ゐ)たるに軈(やが)て八 時(じ)十分とも覚(おぼ)しき頃(ころ)殷々の声(こゑ)遙に起(おこ)りて風声雨声|交々(こも〴〵)到るが如 き物音(ものおと)を聞(き)く扨は夕立かと思ふ間(ま)さへあらせす百瀑の一時に圧(あつ) 下(か)せるが如き勢もて海嘯(つなみ)は監(かん)の外構(そとがこ)ひを衝倒(つきたふ)し見る〳〵合宿所 倉庫(さうこ)、炊所(すゐしょ)、事務所を薙(な)ぎ倒し本監を呑(の)み了(をは)れり我等同僚は先 づ囚徒(しうと)を解放(かいほう)せんとて身を挺(ぬき)んて本監指し馳(は)せ付けたるも未(み) 曽有(そう)の大海嘯の事(こと)なれば如何ともする能(あた)はず兎角(とかく)する間に同僚