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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - ページ 17

ページ: 17

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【上段】 子三人と母(はゝ)一人を死(こ)ろし佐藤利右衛門なるもの其(その)老父母(らうふぼ)及び其 嫁(よめ)、及び其|孫(まご)二人と共に死し又|高橋(たかはし)重吉(ぢうきち)なるもの女房(にょうぼう)子供(こども)一同 溺死(できし)したる等なりしと 被害(ひがい)の当夜は何(いづ)れも皆(みな)夏(ゝつ)の事とて多(おほ)くの漁父は身に褌(ふんどし)一つを纏 ふもの多く或は浸水(しんすゐ)の際(さい)脱(ぬ)ぎ棄てたるものありて僅(わづ)かに一命を 拾ひ得(え)たるものも衣るに衣(い)なく昼夜(ちうや)裸体(らたい)の侭なるものあり 町役場(まちやくば)の書記某の妻(つま)アワヤと云ふ間(ま)に其|下階(かかい)を押し潰(つぶ)されブカ リと浮き揚(あが)りたるに之(こ)は叶(かな)はしと子(こ)を背負(せお)ひたる侭二階へ登(のぼ)ら んとしけるに段梯子(だんはしご)の中程にて濁水(だくすゐ)浸入(しんにふ)し来り子を負たる侭非 命に斃れたりと 又(また)佐藤(さとう)順之助なるものゝ|長男(ちやうなん)某十二才なるが如何(いか)にしたりけん 首切れて流失し胴(どう)のみ残(のこ)りて目も当(あ)てられぬ有様(ありさま)なりしと 志津川(しづがは)病院に年(とし)の頃十四五|許(ばかり)なる小娘(こむすめ)か左手を負傷して繃帯(ほうたい)し 居るものあり試(こゝろ)みに当時|負傷(ふしやう)の模様を尋ぬれば小娘(こむすめ)は両眼にせ ぐり来る涙を払(はら)ひも得せず矢張(やはり)海嘯(つなみ)の当夜|柱(はしら)に敷(し)かれて負傷し たるものなるが娘の両親(りやうしん)と八人の兄弟は残(のこ)らす溺死し自分(じぶん)と十 二になる弟と二人のみ生存(いきのこ)りたりと語(かた)りも畢(おは)らずしやくり上(あ)げ て泣(な)き出したり ○海上に於(お)ける状況  志津川(しづかは)町の漁夫(ぎょふ)は海嘯(つなみ)の当日|海上(かいじやう)に鮪 獲(れふ)をなし居(お)りし為め此|危難(きなん)を免かれたるが其語る所に依れば十 五日|午後(ごゞ)七時|半(はん)頃|海洋(かいやう)に於て大砲(たいほう)を打つが如き大なる響(ひゞき)を発し たるより何事(なにごと)なるかと其方角を眺(なが)むれば風(かぜ)もなきに海水|山岳(さんがく)の 如く高(たか)まりしにぞ何さま海中(かいちう)に異変(いへん)あるに相違なからんと急(きふ)に 網(あみ)を引揚げて帰航(きかう)の用意をなせしが山岳(さんがく)の如く高(たか)まりたる海水 は中間より二つに分(わか)れて南北(なんぼく)に走り急に潮流(てうりう)烈(はげ)しくなりしに間 もなく南北|沿海岸(えんかいがん)に打当りたる響(ひゞき)甚だしく暫時(ざんじ)にして南北海岸 に篝火(かゞりび)提燈(てうちん)の光を認(みと)め陸上|大動揺(だいどうえう)の模様あるにぞ始めて海嘯(つなみ)あ 【下段】 りしを悟(さと)り陸地(りくち)に向けて船(ふね)を進めしに唯|潮流(てうりう)の速かなるを覚ゆ るのみにて別に舟行(しうかう)に差支へなかりし左(さ)れども陸地(りくち)に近(ちか)つくに 随ひ波浪(はろう)益々大にして危険(きけん)少なからざるより其|夜(よ)は洋中(やうちう)に留ま り翌日(よくじつ)浪(なみ)の静まるを待(まつ)て無事(ぶじ)に帰り来りしと云ふ 海嘯(つなみ)は岸に近(つか)く起りしか  志津川(しづかは)町大字|清水(しみづ)の漁夫(ぎょふ)佐藤助七 二十六は海嘯(つなみ)の当日|午後(ごゞ)六時頃|流(なが)し網(あみ)を携へ漁舟(ぎょしう)を操り例(れい)の如 く海上(かいじやう)四里程の沖合(きあおひ)【おきあひ?】に漕ぎ出で、『シビ』、『アオ』等の漁獲(きょくわく)に出で けるが此の日は例(いつ)もと異り手心(てごゝろ)の違ひければ不思議(ふしぎ)の思ひをな しつゝ|一夜(ひとよ)を沖(おき)に明(あ)かしたりスルと家根(やね)、勝手道具(かつてたうぐ)等の夥しく 沖合(おきあひ)に流れ出でたれば助(すけ)七は是れに亦|不審(ふしん)を抱き急(いそ)ぎ家に帰れ ばアナ無残(むざん)家は粉微塵(こなみぢん)となり夫れさへあるに養父(やうふ)信之助、其他 六人の家族(かぞく)は一人も残(のこ)らず圧殺(おしころ)され居たり、一時|助(すけ)七は気の抜(ぬ) けたるが如(ごと)く茫然(ばうぜん)としてありけるが警官等(けいかんら)の慰諭(ゐゆ)に依り今は破(は) 懐(くわい)の取片付に従事(じうじ)し居れり而して其|語(かた)る所は右(みぎ)の如し然(しか)らば今 回の海嘯(つなみ)は四里以下の近海岸(きんかいがん)に起りしものか    ●志津浜 志津川町(しつがはまち)の北約一里半の地に当(あた)りて志津浜あり山其三|面(めん)を囲(かこ)み て前(まへ)に海湾(かいわん)を控へ廣袤一町四方許、戸数(こすう)四十余|戸(こ)村民多くは漁 業を以(もつ)て生を営(いとな)みしが今(いま)や一|面(めん)の荒れ野となりて柱楹横はり瓦 甍|破(やぶ)れ厨器覆へり樹木仆れ僅かに高地(こうち)の上三四|棟(むね)の民屋あるを 見るのみ復た舊時の面景を存するなし滿(まん)眼蕭條の有様(ありさま)は宛然曠 原秋野の瘠(や)せ果てたるが如し其潰倒されたる家屋(かをく)は何(いづ)れも皆柱 礎を奪(うば)はれて三|角形(かくかた)の家根(やね)のみ空しく波上に横(よこた)はれる屋上に復(また) も波浪の打(う)ち寄せ来りたるにやあらん其の茅茨さへ半(なか)ば剥かれ て棟梁のみを露出(ろしゆつ)せる態は総て皆(みな)涙(なみだ)の種ならざるはなし又た仰(あふ) いで遥かの高丘を望めば或は大破(だいは)小破の漁船(ぎょせん)列(れつ)を乱して横はる あり或(あるひ)は曩きに通路の左傍にありし庭樹(ていじゅ)の右傍に飛(と)ぶあり或は