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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - ページ 18

ページ: 18

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【右頁上段】 破壊(はくわい)家屋(かをく)の其位置を転じて道路(だうろ)の中央に坐せるあり独(ひと)り枯木の 梢に吊せる漁網(ぎょもう)の依然として猶|旧時(きゆうじ)の観を存するは人をして更(さら) に懐旧の咸(かん)を深からしむ 此の怒濤|激浪(げきらう)の中より不思儀にも天倖(てんこう)を得て助かりたる廿|余(よ)の 男女の或はむさくるしくほの暗(くら)き一室に炉を囲みて団欒し或は 道路の中央に蓐を設(もう)け木の株に神祇を斎き祭(まつ)りてそが下に小娘(こむすめ) を相手に縫針に余念(よねん)なき母親あり此(こ)の状(じやう)を見ては常々情剛きも のも誰か一掬の紅涙を催(もよう)さゝらんや ○志津浜(しづはま)にて  は男子(だんし)の負傷多く残(のこ)れる五十|余名(よめい)の婦人が寄 集(あつま)りて涙ながら物語(ものがた)りせるに会(あ)ひ近よりて何気(なにげ)なく言葉を掛く れば彼等は唯(た)だ潰れたる家屋を指(さ)したる侭一|言(ごん)をも出す能はず 早や血涙(けつるい)雨の如く泣出(なきだ)せり    ● ○細浦(ほそうら) 戸数(こすう)三十七、人口(じんこう)百五十三、此の内三十二|戸(こ)流失(りうしつ)、百 二十一|名(めい)溺死(できし)又(また)其内(そのうち)全家(ぜんか)挙りて溺死せるは八|戸(こ)なり茲にも救恤(きうじゆつ) 所は設(もう)けられ災民(さいみん)の救助に怠(おこた)りなし 少年(せうねん)あり就て海嘯(かいせう)当時(たうじ)の状を問へば少年(せうねん)は潜然涙を流して曰く 当夜余は父と与に家(いへ)にあり俄然怒濤咆哮の響起ると与に身(み)は何(い) 時(つ)しか床より押(お)し上(あ)げられ屋根裏にまで圧迫(あつぱく)せられて身動(みうご)きも 為し得(え)ず進退(しんたい)茲(こゝ)に谷(きは)まりしかば及ばぬながらも必死(ひっし)となりて漸 く屋根(やね)を破り屋上に匐(は)ひ登りて四辺を見渡せば桑田(さうでん)は忽ち大海(おほうな) 原(ばら)と化し去りて脚下(きやくか)の吾が家は今しも激浪(げきらう)に翻弄されつゝ|山手(やまて) の方に走り往けりかくして凡(およ)そ十分時も経(へ)ぬらんと思(おも)ふ頃には 波和ぎて家(いへ)は動かずなりぬ去(さ)れど水は尚ほ退かず茲(こゝ)に於て余は 自ら勇気(ゆうき)を鼓舞して水中に投(とう)じ七八間の処(ところ)を泳(およ)ぎ脱けて遂(つひ)に陸 地に上りぬ余は之が為(ため)に用もなき命(いのち)を全うしたれども予が父(ちゝ)は 如何になし絡(たま)ひけん今日に至る迄(まで)行衛知れず余は寝食(しんんよく)【しんしょく】を忘(わす)れて 【右頁下段】 三日の間|捜索(さうさく)せしもそが影(かげ)さへ見えず余(あま)りのことに力(ちから)も脱(ぬ)け気も 弛みて空しく怖(たゝづ)み居るなりと云(い)へり 一|家屋(かをく)を取壊すとき偶(たまた)ま一女の死|体(たい)屋根裏より現(あら)はれたり巨大(きょだい) なる梁の間に挟まれ居(ゐ)たるが苦|悶(もん)の情想像せらる役夫(えきふ)帯(おび)を取り て外(そと)に引き出したるに右頸(うけい)を負傷し血痕(けつこん)班々(はん〳〵)たり尤も既(すで)に一週 間余を経過したることなれは稍(やゝ)腐敗(ふはい)して臭気を放(はな)てり娘は十二 三の少女なりしも死体(したい)膨張(ぼうちやう)して殆(ほん)んど二十二三|位(ぐらゐ)の者の如くな りし 人家ありし跡(あと)には一旦攫去られたる家屋(かをく)が打揚げられて山を築 き其下には可憐なる小兒(せうに)の遺骸の糜爛したる毛の抜たる壯丁の 屍老婆の死屍馬の死骸(しがい)犬の骨など狼藉(ろうぜき)たり之を目撃(もくげき)し若くは之 を聞くもの誰(だれ)か酸鼻(さんび)せざるものぞ此|死屍(しがひ)は大抵堀出したれど尚 ほ見当(みあた)らざる分|若干(にやくかん)あり    ●清水 ○清水(しみづ) 戸数(こすう)六十五、人口(じんこう)三百二十九、漁業(ぎょげふ)は生民の生業(せいげふ)なり 然るに其(その)五十二|戸(こ)は圧潰(おしつぶ)され其百六十五|人(にん)は溺死せり残れる人 々とて満足(まんぞく)なるは僅に十二|人(にん)に過ぎざれば志津(しづ)川分署は急に巡 査を増派(ぞうは)し清水駐在巡査と共に救恤(きうじゆつ)に従はしめ去る十六日を以 清水て救恤所なるものを設(もう)け悉皆之れに災民(さいみん)を収容し又一方に 於ては海嘯(つなみ)に無関係なる登米(とよね)郡役所の応援(おうえん)を乞ひ人夫(にんぶ)を徴発し 潰家の取片付(とりかたづけ)に着手せしめたりしが破壊(はくわい)家屋(かをく)を取片付くる毎(ごと)に 生々しき死骸(しがい)の顕はるゝより皆(みな)恐(おそ)れ戦きて中(なか)に□【は】逃出さんとす る者(もの)なきに非(あら)ずといふさもあるべき事(こと)なり 最も憫(あは)れなるは鈴木(すゞき)松次郎(まつじろう)と云へる四十一歳の不具者(ふぐしゃ)が五人の 家族(かぞく)を悉く失ひ渡辺彦左エ門と呼(よ)べる五十余の老人が六|人(にん)の家 族悉皆溺死し佐藤(さとう)助七(すけしち)と云へるが漁業より帰(かへ)り来り見れば八|人(にん) の家族悉皆死没し居(お)れる事等なり其他(そのた)老人のみ生残(いきのこ)りて倚る所 【左頁挿絵二枚】 【上題】 志津川被害の惨状 【下題】 釜石町石応寺門前伏屍相累なるの図