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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百十八號 大海嘯被害録(上) - ページ 27

ページ: 27

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【右頁上段】 歳(さい)の一炊夫のみ辛(から)ふして一縷の命脈(めいみやく)を維ぐを得(ゐ)たり想ふに釜石 湾は尾崎(をざき)、間蛇の両岬(れうこう)南北に斗出し湾形(わんけい)恰も嚢の如くなりしを 以て幾分(いくぶん)か潮水の浸入(しんにふ)を遮攔し潮高稍寛なるを得(ゐ)たりと雖(いへど)も両 石湾は漏斗状(ろうとじやう)をなし直に外洋に面(めん)するを以て殊(こと)に潮勢激甚なり しならん屋材(をくざい)を劈き喬樹を摧きたるの光景(こうけい)は一|目凄然(もくせいぜん)人をして 血涙に咽(むせ)ばしむ 白木沢孝氏の奇話  両石村の開業医たる同氏(どうし)も亦|避難者(ひなんしゃ)の一 人にして妻子(さんし)眷族(けんぞく)悉く流滅せしよしなるが同氏(どうし)は自宅(じたく)の屋根に 縋(すが)り居(お)りて遙(はる)かにニ百|間余(けんよ)の海上に押流(おしなが)され次で板子(いた)に取付き 幾多の苦楚を嘗(な)め翌日(よくじつ)午前十時|頃(ころ)まで破浪に揺(ゆら)れつゝも水練の 素養ありし為(た)め一|破船(はせん)に泳ぎ着(つ)き辛くも命(めい)を殞(をと)さゞるを得たり と云ふ然(しか)れども全身(ぜんしん)殆(ほと)んど傷ならざるはなし    ●鵜住居村 南閉伊郡鵜住居村は水海、両石、桑(くわ)の浜(はま)、仮宿、白浜(しらはま)、箱崎、根浜、 鵜住居、片岸、室(むろ)ノ浜(はま)の大字より成(な)り全戸数(ぜんこすう)四百七十四、人口三 千百五十三人ありし地方(ちほう)なるが村長(そんちやう)の談話に拠れば去(きょ)十五日午 後四時頃より八|時(じ)までに微震(びしん)二回|小震(せうしん)一回を感ぜしが孰れも左 まで気(き)に留(と)めざりしに八|時(じ)二十分頃|爆然(ばくぜん)たる一声|轟(とゞろ)き天柱摧け 地維(ちい)折くるかと思ふ瞬間に大海嘯(だいかいせう)は天を捲(まい)て来り両石、水海、 箱崎の南部(なんぶ)及片岸に於(お)ける民家(みんか)は一|挙(きょ)にして微塵に破砕(はさい)せられ 人命及|家財(かざい)の損害其|幾何(いくばく)なるを知(し)らずと云ふ 村役場に於(おい)て調査せし所(ところ)に拠(よ)れば通貨の流亡(りうぼう)せしもの約三千二 百七十円、家具家財(かぐかざい)約(およそ)二万二千七百余円、製塩釜(せいえんかま)八ヶの代価一 千六百円、耕地(かうち)の荒廃せしもの十三|町(ちやう)、船舶(せんぱく)の破壊一百廿四、 建物二百九十四、牛馬(ぎうば)約(およそ)四十頭、浸水|田畑(でんぱた)百三十五|丁余(ちやうよ)ならん と云ふ、吁何(あゝなん)ぞ夫れ損害(そんがい)の莫大なるや 石川清分氏の奇特  同氏(どうし)は遠野町の開業医(かいげうゐ)なるが海嘯(つなみ)の警報 【右頁下段】 に接すると同時(どうじ)に匇々|薬品(やくひん)を整へ昼夜|兼行(けんかう)して氏の故郷(こきやう)なる鵜 住居村を慰問(ゐもん)し直に患者(くわんしゃ)を収容して救急治療に余念(よねん)なきものゝ 如しこれ等(ら)を真の仁術家(にんじゆつか)と謂(い)ふべし 惨話二三  鵜住居村中|海岸(かいがん)に瀕せる部落(ぶらく)は殆んど全滅(ぜんめつ)したる の悲況(ひきやう)なるが殊に両石|箱崎(はこざき)の如きは其最(そのさい)なるものにして挙家(きょか)滅 亡したるもの比々(ひゝ)皆然(みなしか)りとす而して偶〻(たま〳〵)事を以て他村(たそん)に在りし 為め難を免(まぬが)れしもの一家眷族幽明境を異(こと)にするあり或は廿人の 家族中|僅(わづか)に一乳兒を存(そん)するのみなるあり又(また)箱崎(はこざき)の漁場に在りし 漁夫八十五|人(にん)は空(むな)しく海底の藻屑(もくづ)と化了し残(のこ)るは唯(たゞ)三人なるあ り要するに是(こ)れ悲惨(ひさん)の一|例(れい)に過ぎず被害の地見るもの一として 皆暗涙の種(たね)ならざるはなし 夫妻のみ不思議に助かる  鵜住居村(うすまゐむら)の道又某は其(その)父と酔臥し 居たるに海嘯(つなみ)の音に目を醒(さま)して父母|妻子(さいし)下女(げじょ)と共に二階に上り たるは其|家(いへ)の已に流出(りうしゆつ)せし時にて某は黒暗(くらやみ)なれど屋根|裏(うら)に取付 き母妻子|等(とう)には其身(そのみ)にシカと取付(とりつ)かしめて漂流(へうりう)しつゝありしが イッか父の声(こゑ)も聞(きこ)えずなりしのみならず屋根(やね)も次第(しだい)に建物を離 れんとするより己(おの)れ先づ屋根(やね)を突破りて上(うへ)に登り母妻等をも其 穴より登(のぼ)らしめんとする内(うち)山際(やまぎは)に打寄せられしを幸(さいはひ)に其山へ飛 下り手(て)を伸(のば)して母妻子等を救(すく)はんとする瞬間(しゆんかん)に又も襲ひ来(きた)れる 波濤の為(た)めに家は忽(たちま)ち母妻子|諸共(もろとも)持去(もちさ)られぬ然るに其妻(そのつま)が母等 と共に又(また)も漂流(へうりう)しつゝある時子(ときこ)を負せありたる下女(げじょ)が誤て水中 に陥(おちい)りしかば之を救(すく)はんとしたる機(はづみ)に其身も足(あし)を辷(すべ)らして落ち たるに不思議(ふしぎ)にも山崖に打上(うちあ)げられて辛(から)くも一命を繋ぎ留め茲 に夫妻両人とも別条(べつでう)無(な)きを得たりしも両親と愛子(あいし)は孰(いづ)れも無惨 の最後(さいご)を遂(と)げしとなり    ●大槌町 大槌(おほつち)町は大槌湾の奥(おく)に位し御箱(おはこ)、野島(のじま)の両岬湾口を約(やく)す大海嘯 【左頁挿絵二枚】 【上題】 綾里村の惨状 【下題】 釜石海岸の惨状