翻刻
【右頁上段】
美術新形抱へ鞄包
今般弊堂に於て発売せる西陣織抱へ鞄包の義は弊堂主人か
多年意匠を凝らし京都にて有名なる西陣織物師に命じ別機
を用ゐて織出さしめ東京第一流の名工をして針を取らしめ
たるものなれば優美高尚
なるは言ふまでもなく裏
は極上等の革を縫合せあ
れば其堅牢なると従来の
革鞄包に幾倍し中は紙幣
入端書入書類入鉛筆挿等
に区画しあれば小形にて
も沢山の物品を容るゝを
得べく又小く畳みて懐へ
入るゝことも随意にて乗車
の際膝の上に置くも辷べ
り落つる憂なし顧客の望
に依りては御好の模様を
も縫取らすべく貴顕紳士夫人令嬢等の御用品に至極適当の
品に御座候間何卒弊堂に於て予て販売する貴金属宝石類粧
飾品同様御愛顧御注文被仰付候様奉願候弊堂か廉価篤実を
旨とする事は大方の君子既に御承知の儀に候へば茲に改め
申上ぐる迄もなき儀と奉存候
定価《割書:一円二十銭より以上各種|御好み次第御調製可仕候》
東京下谷池の端 貴金属美 玉宝堂
仲町二十九番地 術袋物商 飯塚伊兵衛
【右頁下段】
美術金製指環
定価 一個五円以上
余は御好みに
応じ調製可仕
候
|文明(ぶんめい)の|風天(かぜあめ)が|下(した)に|吹(ふ)き|渡(わた)りて、|日々(ひゞ)に|開(ひら)け|行(ゆ)く|今(いま)の|世(よ)は|男女(をとこをんな)に
|論(ろん)なく|家(いへ)の|外(そと)の|業務(しごと)に|忙(せわ)しく|游燕(いうえん)の|交際(つきあひ)|繁(しげ)し、されば|何(いづ)れも|他(ひと)
に|後(おく)れず|時様(はやり)を|競(きそ)ふ|雅男嫋女(みやびをたをやめ)のその|中(なか)に|交(まじは)りて、|輸(ま)けず|劣(をと)らぬ
|容儀(たしなみ)は、|強(あなが)ち|奢侈(おごり)の|沙汰(さた)にはあらずして、|誠(まこと)や|谷(たに)に|玉(たま)なければ
|其水(そのみづ)や|美(うま)からずとの|意(こゝろ)なり、|弊堂(へいどう)|年来(としごろ)|斯(こ)の|道(みち)に|心(こゝろ)を|注(そゝ)ぎて、|時(は)
|様(やり)の|源(みなもと)となりたるが|多(おほ)き|中(なか)に、|爰(こゝ)に|亦(ま)た|新案(しんあん)の|指環(ゆびわ)|数種(すうしゆ)あり、
|意匠(いせう)は|都(すべ)て|大家(たいか)の|苦心(くしん)に|基(もとづ)き、|技巧(たくみ)は|皆(み)な|名匠(めいせう)の|丹誠(たんせい)に|成(な)り、
|金質(きんしつ)の|純良(じゆんれう)はいふも|更(さら)なり、|宝石(ほうせき)の|整美(せいび)は|論(ろん)ずるに|及(およ)ばず、|風(ふう)
|韻(ゐん)の|高雅(かうが)なること|世(よ)に|類(るゐ)なし、|謹(つゝしん)で|時様(はやり)に|晩(おく)れたまはぬ|淑女(しゆくぢよ)|紳(しん)
|士(し)に|告(つ)げ|参(まゐ)らすと|云爾(しかいふ)
追て御承知の通り金製諸品販売の儀は弊堂年来の本業に候得
者若し弊店販売品御不用の節は何時にても申受候又御誂向の
節は目下御注文相嵩み居り候際故予め御申入被下度併て奉冀
候
東京下谷池の端 貴金属美 玉宝堂《割書:謹|白》
仲町廿九番地 術袋物商
飯塚伊兵衛
東京市神田区 鼈甲珊瑚珠 長岡商店《割書:謹|白》
須田町六番地 類小間物商
電話三百五十番
【左頁】
《割書:変災|前知》身体保全法概要
今回陸前陸中陸奥三国の海辺に起りたる大海嘯は実に未曽有の大変にして驚愕悲歎に堪ざる所なり夫れ此等の如き変災を前知
するの一奇法は兼てよりあることなるを世人の知るもの少なきは惜むべき事と思ひ小生十五歳の時より経験せし実譚を録して
過る明治廿五年施印数萬枚を配布したる故自然三陸の間に於ても之を今回に実験したる人ありぬべし扨此法の起りは何時なる
や詳かならざれども或隠医が伊豆の国海岸に起りたる海嘯を前知して数十人引連れ山に逃げ上りて大難を免かれたることあり
其方法なるや至て簡易にして何人にても之を行ふを得べく其順序は図に掲ぐる如く
先左手の大指と食指とにて
《割書:第壱図|の如く》奥の下歯の左右の根に
ある《割書:大迎|の穴》動脈を診し次に《割書:第弐|図の》
《割書:如|く》右の手を以て左の手の脈
度を診するなり《割書:之を自身に行ふも他|人を診するも同様な》
《割書:りと|す》而て奥歯の根左右の手
共三箇所の脈動同一なる時
は無難の証にて之に反し脈
動乱るゝ時は廿四時間内に一命に拘るべき大難あるの前兆なり
とす《割書:斯るときには速に其所を立退き脈動同一なる所に至て止まるべし若し何方に往きても一人のみ脈動乱れ他の人々は平|脈に復したるときは是れ一人丈け別に災難のあるか又は病災に罹るものと知るべし兎も角此度の大海嘯の前に於て此》
《割書:方法を広く試みたらんには非命の死を免れたる人も必ず多かりしならん時節未た至らずして神術を普及し得ざるは小生の遺憾|に堪ざる所なり茲に概要を録し世の人々の身体を保全するの一助となさんと欲す冀くは一読の上試験せられんことを請ふ》
東京市下谷区池之端仲町廿七番地
明治廿九年丙申六月吉辰 宝丹本舗 十世 守田治兵衛
父 守田長禄翁謹述
二白此方法に付ては曾て身体保全法と題する一小冊を発行し杉宮内大夫閣下の賛成を賜はり題字を手書せられたり又諸氏
の確報をも収録したるを以て神術の実歴を知るを得べし此書一部金弐拾銭なれとも此際に限り郵券代用を以て求めに応じ
且つ郵送料は申受けざるべし