翻刻
【右丁】
泰平(たいへい)山(さん)安楽(あんらく)の身哉(みや)《割書:身哉(みや)は|宮(みや)なり》五常(ごじやう)の道(みち)より聖賢(せいけん)の道(みち)に入(い)り公道(こうだう)
人道(にんだう)の本街道(ほんかいだう)より至(いた)るこゝに居付(いつき)在(まし)ます御神(おんかみ)は四方(しはう)一丁(いつてう)の角(かど)
地面(ぢめん)有徳(うとく)天神(てんじん)と申《割書:天神(てんじん)は|転人(てんじん)也》奉(たてまつ)る惣領(そうれう)子息(しそく)人(じん)とて御兄弟(おんはらから)おほく
ましませ共 皆(みな)夫(それ)〳〵に嫁(とつぎ)給ひ惣領(そうれう)の上(かみ)なるゆへに家督(かとく)相続(さうぞく)なさしめ
給ふ性質(うまれつき)柔和(にうわ)正直(しやうじき)にして忠孝(ちうかう)の道(みち)を守(まも)り仮(かり)にも奢(おごり)を顧(かへり)み給はず
質素(しつそ)倹約(けんやく)を旨(むね)とし上(かみ)たるを敬(うやま)ひ下(しも)を憐(あはれ)み慈悲(じひ)の心(こゝろ)深(ふか)く堪忍(かんにん)第一(だいゝち)
にして主(つかさ)どる所(ところ)の勤(つとめ)に怠(おこたり)なく子孫(しそん)長久(ちやうきう)の繁栄(はんゑい)を守護(しゆご)なし給ふ
親族(しんぞく)の末社(まつしや)には慈愛(じあい)を垂(たれ)給ひ眷属(けんぞく)を恵(めぐ)み財宝(ざいはう)を施(ほどこ)し給ふ
故(ゆへ)に天理(てんり)に協(かなひ)給ふ人徳(じんとく)厚(あつ)き礼者(れいしゃ)《割書:霊社(れいしゃ)|なり》なり
夫婦石(めをといし) 夫婦石(めをといし)は泰平(たいへい)山(ざん)の麓(ふもと)にあり相(あひ)伝(つたへ)ていふ昔(ふかし)こゝに夫婦(ふうふ)の
【右丁枠外左下部】道中二ヘン 七
【左丁】
農民(ひやくしやう)あり常(つね)に足事(たること)を知(しつ)て奢(おこり)の心(こゝろ)露(つゆ)ばかりもなく夫(おつと)は妻(つま)をあはれみ
妻(つま)は夫(おつと)を敬(うやま)ひかしづき互(たがひ)に助(たすけ)て耕作(かうさく)の勤(つとめ)怠(おこた)らず三男(さんなん)二女をまうけ
その養育(やういく)孟母(まうぼ)の趣(おもむ)きありければ其子(そのこ)みな篤実(とくじつ)質朴(しつぼく)にして考(かう)
行(かう)に事(つかへ)ければ国守(こくしゆ)より褒美(はうび)を給(たまは)り親(おや)は春(はる)は種(たね)を蒔(まき)晴雨(せいう)
をいとはず田(た)を耕(たがや)し丹誠(たんせい)に暇(いとま)なく夏(なつ)の炎(えん)暑を凌(しのぎ)て豊作(ほうさく)を
楽(たのし)み夕顔(ゆふがほ)棚(だな)の下(した)涼(すゞみ)男(をとこ)はてゝら【ててら=下帯・ふんどし】妻(め)は二布(ふたの)【二布=腰巻】して麁食(そしよく)をよろこび
是(これ)を我(われ)天(てん)より授(さつけ)給ふ富貴(ふうき)とのみ歓楽(たのしみ)ければその風儀(ふうぎ)隣村(りんそん)に
なびき皆(みな)醇厚(じゆんかう)になれたま〳〵驕慢(きやうまん)の心(こゝろ)あるものは足(あし)を止(とゞ)
めずこの故(ゆへ)に夫婦(ふうふ)の形勢(かたち)を石(いし)に彫(えり)て古跡(こせき)を残(のこ)せしとぞ
高運(かううん)山(ざん) 三教(さんけう)道(だう)より福禄(ふくろく)道(だう)へ至(いた)り宝(たから)の山(やま)へ行道(ゆくみち)なり平人(へいにん)常(つね)に