東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 2

善悪道中記 - 翻刻

善悪道中記 - ページ 12

ページ: 12

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【右丁】  趣(おもむ)く所(ところ)にして天運(てんうん)循環(じゆんくわん)といふ道(みち)より至(いた)れば本街道(ほんかいだう)にて登(のぼれ)ば下(くだ)る道(みち)  あり諺(ことわざ)に果報(くわほう)は寝(ね)て待(まて)といへども果報(くわほう)とは果報(めぐるむくひ)といふ事(こと)にて陰徳(いんとく)を施(ほど)  こさねば陽報(やうはう)ある事なし運(うん)は天(てん)にあり牡丹餅(ぼたもち)は棚(たな)にありと  いへども棚(たな)へ揚(あげ)る人(ひと)がなければ自然(しせん)に牡丹餅(ぼたもち)のあるべきやうなし此(この)  高運(かううん)山(さん)には善悪(ぜんあく)ともに不慮(おもはず)至(いた)るものあり贔屓(ひゝき)の影(かげ)に道(みち)あり  言葉(ことば)の花盛(はなさかり)なれば追従(ついしやう)賄賂(まいない)の姦智(かんち)によりて諂(へつらひ)内欲(ないよく)の私(わたくし)に  爰(こゝ)に至(いた)るは遂(つひ)に其身(そのみ)を斃(ほろぼす)の訛(あやまり)となるされども人(ひと)はこれを  羨(うらや)むお結構(けつこう)といふ鳥(とり)あり何(なに)にても抓(つかむ)といふ又(また)主(しゆう)のため  親(おや)の為(ため)子孫(しそん)の為(ため)に登(のほ)る事(こと)もあり煩悩(ぼんのう)の雲(くも)に掩(おほ)はれ只(たゞ)  宝(たから)の山(やま)に入(いら)んと欲心(よくしん)に道(みち)を忘(わす)るゝ迷所(めいしよ)なり天命(てんめい)を楽(たのしむ) 【右丁枠外左下部】 道中二ヘン 九 【左丁】  ものは斯(かゝ)る危(あやふ)き道(みち)におもむかず満(みつ)れば欠(かく)る患(うれへ)眼前(がんぜん)にあるべ  き所(ところ)なり昔(むかし)毎内(まいない)といふ人(ひと)欲心(よくしん)深(ふか)く物(もの)を食(くふ)も不食(くはず)に溜(ため)たる  金(かね)を路用(ろよう)となし宝(たから)の山(やま)に至(いた)らんことを思(おも)ひ立(たち)て道(みち)の難所(なんじよ)を厭(いとは)ず  一人の婦人(ふじん)を案内(あんない)に頼(たの)み懸河(けんか)といふ川(かは)をわたり既(すで)にして宝(たから)の山(やま)  の半腹(はんふく)に至(いた)りしとき俄(にはか)に徳風(とくふう)起(おこり)て吹帰(ふきかへ)され先達(せんだつ)の婦人(ふじん)も  見失(みうしな)ひすご〳〵帰(かへり)来(きた)りしとぞ是(これ)を諺(ことわざ)に宝(たから)の山(やま)に入(いり)ながら手(て)を  空(むなしく)して帰(かへ)るといふ五郎(ごらう)時致(ときむね)祐経(すけつね)に対面(たいめん)のとき是(これ)を罵(ののし)りいふ  言葉(ことば)となれりよしや朝比奈(あさひな)こゝに居合(ゐあは)せずとも道(みち)にあらず  して横道(よこみち)よりこの山(やま)に登(のぼ)ることはお つ(◦)こてへろ【へろ=辺ろ。ほとり】ト聖賢(せいけん)のいましめ  給ひし迷所(めいしよ)の高山(かうざん)なり