翻刻
【右丁右上部から】
不経済(ふけいざい)散財(さんざい)事(じ)之(の)雑物(ざふもつ)【囲み線あり】
樽(たる)が大事(だいじ)【囲み線あり】
○月(つき)雪(ゆき)花(はな)の
ながめは
おろか
何(なん)につけても
酒〳〵と呑(のむ)ことに
工面(くめん)めんぺきの尊像(そんぞう)なり
樽(たる)が損者(そんじや)といふ小買(こがひ)が
徳(とく)なり
さけ【樽が大事の図内、樽に書かれている】
無多(むた)如来(によらい)の尊像(そんぞう)【囲み線あり】
○宵(よひ)ごしの銭金(ぜにかね)はもたぬことを
ちかひて殻(から)【読ヵ】さし【注1】の百度(ひやくど)まいりを
よろこび給ふ
【無多如来の図、尊像の台座部分右に倒した形】
弘化二年■
現金諸色之通
■■月■■
○樽(たる)が大事(だいじ)の尊像(そんぞう)は毎日(まいにち)大酒盛(おほさかもり)を
してんわう寺(じ)二日ゑひもちこしむかひ酒(さけ)のみだ
肴(さかな)らうそくの費(ついえ)をいとはずよたんぼう【注4】と也
酔(よつ)たうちの大気(たいき)【注2】むだづかひにあとさきの勘(かん)
定(ぢやう)考(かんがへ)もなくはてはけんくわ口論(こうろん)にかゝりて
家業(かげふ)をやすみ面目(めんぼく)を失(うし)なへども恥(はぢ)とも
おもはず頭痛(づつう)はちまきのくすりざんまい
のみなほしのぐてんどろたぼう【注5】となり費(ついえ)
だい一の尊像(そんぞう)なり吐血(とけつ)酒(しゆ)どく内(ない)そんの
わざはひはこれよりいだす
○奢(おごり)判官(はんぐわん)の守(まもり)本尊(ほぞん)身(み)のほどを弁(わきま)へずゑよう
ゑいぐわにみることきくこと人のする事はうら
やましく一寸(いつすん)さきはやみだによらいあればあり
きりのむかふみず女ぼう大しの御さくにて
物(もの)まへあてなしの借金(しやくきん)引当(ひきあて)間違(まちがひ)借(かり)ては
かへさぬかうじ町(まち)の井戸(ゐど)【注3】より出現(しゆつげん)ある
むだによらい南(な)むさんぼうかしても
かりてもなむ
あみだぶつ
淫乱(いんらん)性人(しやうにん)の於文箱(おふみばこ)【囲み線あり】
【右丁枠外左下部】
道中二編 十三
【左丁右から】
証拠印(しやうこいん)の真蹟(しんせき)【囲み線あり】
証拠印(しやうこいん)のしんせきは書(かき)いれの有無(うむ)金子(きんす)借用(しやくよう)
證文(しやうもん)なり年月(としつき)つもりて利(り)に利のかさみつひに
かきいれをとられ人手(ひとで)にわたすたしかな證拠(しやうこ)の
印(いん)あるしんせきなり借金(しやくきん)は身代(しんだい)のらうがいやみ
にてだん〳〵にくのへるはてはほねがらみとなり
どうしやうかうしやうのしゆだんつきるやりくり
なんじうのしゆせきなりゆづうによりては
なくてならぬけいざいの
しやうこいんなり
【証拠印の真蹟図内】
借用申金子■■【事ヵ】
一金 三(?)百両也 ■■■■■
右【以降判読できず】
○身(み)から出(で)たさび刀(がたな)はみぬけの方剣(はうけん)と
いふ奢(おごり)家(け)の重宝(ちやうはう)也 出(いで)てふたゝびもとの
さやへおさまらずすべてものごとさしつまり
たるとき壁(かべ)へ馬(うま)をのりかけ敵(てき)を
見て矢(や)をはぐごとき思慮(しりよ)なければ
善悪(ぜんあく)ともにわざはひのつるぎに
かゝりて身(み)のさびと
なるといへり
○いんらん性人(しやうにん)の御ふみと申はもとより
身(み)ぶん不相応(ふさうおう)の妾宅(せふたく)をしつらへ
女(をんな)ぐるひにおのれがすきの道(みち)へは金銀(きん〴〵)を
つかひすて口には田川や平清の【田川・平清=どちらも料理屋の名前】の美味
をくひあき身(み)には流行(りうかう)のそこいたり【注6】を
かざり僭上(せんしやう)【注7】につのりて身(み)のつとめに
おこたり病(やまひ)をしやうじておんせん湯治(たうじ)に
遊山(ゆさん)をことゝすかぎりなき
さんざいをたのしみなじみの女(をんな)
よりのお文(ふみ)さまとたつとぶ
ふけいざいのひとつなり
身(み)から出(で)た錆刀(さびがたな)【囲み線あり】
【注1 からさし=空緡。銭をとめる為の結び目のない銭さし】
【注2 大気=度量がおおきいこと。気が大きくなること】
【注3 こうじ町の井戸=深いもののたとえとして使われる表現。麹町は高台で井戸が深かったことから】
【注4 よたんぼう=ようたんぼう(酔うたん坊)の変化した語。酒に酔っている人。酔っ払い。】
【注5 ぐでん泥田棒=「ぐでん」は酒に酔って正体のないさま。「泥田棒」は「泥田を棒で打つ」の略でめちゃくちゃな振る舞いをすることなので、酔ってめちゃくちゃをすること。】
【注6 底至り=外観は粗末だが、内実或は人目につかぬ所は手がこんで立派なこと。】
【注7 身分を越えて奢りたかぶること。】