翻刻
【右丁】
倹約(けんやく)は人道(にんだう)第一(だいゝち)の嗜(たしなむ)べき行(おこな)ひにして費(ついへ)を省(はぶ)き奢(おごり)を謹(つゝし)み倹約(つゞましやか)に
節(ほど)よく金銀(きん〴〵)を貯(たくは)へ散(ちら)すことを惜(をし)まず施(ほどこ)し取(とる)べきを取(とつ)て無益(むえき)の
費(ついへ)を厭(いと)ふ是(これ)を倹約(けんやく)といふ吝嗇(りんしょく)はその裏(うら)なり財(さい)を貪(むさぼ)りとりて
散(ちら)すことを悋(をし)む長(なが)き浮世(うきよ)に短(みじか)き命(いのち)を以(もつ)て甘味物(うまいもの)の味(あぢ)をしらず
見(み)べきを見ず行(ゆく)べきに往(ゆか)ず一生(いつしやう)金(かね)の番人(ばんにん)となり生(せい)を貪(むさぼ)り死(し)して
他人(ひと)の為(ため)になる文盲(もんもう)愚痴(ぐち)の至(いた)りなり来世(らいせ)は吝虫(しわむし)と生(うま)れ赤螺(あかにし)
と生を更(かへ)亦(また)人(ひと)に食(くは)るゝなるべし阿房(ばか)の塚(つか)に茗荷(みやうが)を生(しやう)じ彼(かれ)は塚(つか)
に生姜(しやうが)を生(しやう)せんされども我(わが)好む所(ところ)ありてこの山(やま)より好臭(こうしう)皆道(かいだう)へ
の抜道(ぬけみち)少(すこ)しあり好臭(こうしう)皆道(かいだう)は美人(びじん)多(おほ)し末(すゑ)にくわしく誌(しる)す是(これ)より
十六 利勘堂(りかんだう)あり貸(かす)のは損者(そんじや)殖(ふやさ)ずと減(へら)さぬやうにといふ誓(ちかひ)を
【右丁枠外左下部】
道中二ヘン 十八
【左丁】
以(もつ)て建立(こんりう)し給ふ所(ところ)なり爰(こゝ)に安置(あんち)し給ふ非道(ひたう)菩薩(ほさつ)は赤子(あかご)の腕(うで)
をねぢり人(ひと)の難義(なんぎ)をふり顧(かへり)ても見ず慈悲(じひ)の心(こゝろ)は露(つゆ)ばかりもなき
身程家(みほどけ)也(なり)相伝(あひつたへ)て言(いふ)貸(かす)のは損者(そんじや)常(つね)に説(とき)給ふに凡(およそ)世(よ)にあるもの
貧乏(ひんほう)にして金(かね)なき者(もの)生(いき)たる甲斐(かひ)はなしといふ金(かね)を多(おほ)く持(もち)たる者(もの)は
人(ひと)も敬(うやま)ひ馬鹿(ばか)も利口(りこう)に見(み)へ文盲(もんもう)も知者(ちしや)となる金(かね)のわらじを
はくも金銭(きんせん)意(こゝろ)に想(おも)ふこと金(かね)の徳(とく)を以(もつ)て整(とゝの)はずといふことなし只(たゞ)
寿命(じゆみやう)と病(やまひ)のみ金(かね)でも及(およ)ばず夫(それ)金(かね)の妙(めう)なる事 無理(むり)をいへども
道理(だうり)金(かね)の為(ため)に引込(ひきこみ)足(あし)なくして行(ゆき)翼(つばさ)なくして飛(とふ)金(かね)で人(ひと)の面(つら)を
撃(うて)ども腹立(はらたつ)ものなく却(かへつ)てお手(て)の痛(いたみ)を尋(たづ)ぬ子(こ)は育(そだつ)るに費(ついへ)係(かゝ)
り漸(やうやく)成人(せいしん)なせども日々(ひゞ)衣食(いしよく)の費(ついへ)あり金(かね)は證文(しやうもん)一員(ひとひら)を取(とつ)て