翻刻
【右丁】
手ばなすは危(あやふ)きに似(に)たれども昼夜(ちうや)利分(りぶん)を稼(かせい)で殖(ふや)せども衣(い)
食(しよく)の煩(わづら)ひなし実子(しつし)よりも妻(つま)よりも金(かね)に代(かは)るものはあらず嗚呼(あゝ)
可愛(かあゆき)かな尊(たうと)き哉(かな)と孔方(こうはう)大事(だいし)も説(とき)給ふ不働(ふはたらき)の貧窮(びんぼうにん)は清(せい)
貧(ひん)を楽(たのし)むるぞと負(まけ)をしみより銭金(せにかね)を欲(ほ)しがらずとも吝(をしむ)時(とき)は
事(こと)に臨(のぞ)みて恥(はぢ)をかゝず十(じう)の字(じ)の下(しも)を左(ひだ)りへ押枉(おしまげ)七(しち)となすにも
種(たね)がなければ誰(たれ)とて金(かね)を貸(かす)ものあらん是(これ)我(わが)常(つね)に説(とく)ところ飯(めし)
時(とき)も後(おく)れて空腹(ひもじく)なりし時(とき)喰(くへ)ば菜(さい)もいらずしてそのうへ熟(うま)し
奢(おご)りをはぶきて名利(みやうり)を考(かんが)へ落(おち)たるを拾(ひろ)ひ他(ひと)の捨(すて)たるを取(とつ)ても
元手(もとで)なしに世(よ)を渡(わた)る捨(すて)る紙(かみ)に助(たすか)る紙屑(かみくづ)ひろひあり金(かね)の中(なか)
にありながら。金銭(きんせん)に見限(みかき)られ貧乏(びんぼう)するこそいたましき縁(えん)なき
【右丁枠外左下部】
道中二ヘン 十九
【左丁】
衆生(しゆじやう)は度(ど)し難(がた)し我(わが)宗門(しうもん)に入(いる)ときは金(かね)は湧出(わきいで)自由自在(じゆうじざい)懶惰(なまけ)て
金(かね)を欲(ほし)がる癖者(くせもの)は人間(にんげん)の屑(くづ)久助印(きうすけじるし)上(うへ)なしの痴漢(ばかもの)なりと
愚者(ぐしや)の一徳(いつとく)説得(ときえ)て妙(めう)なる説法(せつほふ)怠(おこた)り給はねば爰(こゝ)に歩行(あゆみ)を
運(はこ)び十六 利勘(りかん)の参詣(さんけい)絶(たゆ)る暇(ひま)なく信心(しん〴〵)に怠(おこた)るものは
働(はたら)きなしと賤(いや)しめられて利益(りやく)必(かならず)薄(うす)しといふ
大山(おほやま)不当(ふたう)妙応(めうおう) 吝嗇(りんしよく)の山(やま)つゞき太原(ふとつはら)の皆身(みなみ)の方(かた)にあり
当山(たうざん)は利欲(りよく)大師(だいし)の開基(かいき)にして新田(しんでん)開発(かいほつ)の功(こう)成就(じやうじゆ)より当(たう)
山(ざん)建立(こんりう)なる証拠印(しやうこいん)一派(いつは)山普師(やまふし)身元(みもと)金證(きんしやう)法印(ほふいん)支配所(しはいしよ)
なり本地(ほんち)不当(ふたう)妙応(めうおう)の尊像(そんぞう)は骨折(ほねをら)ずに金(かね)を儲(まうけ)給ふ霊(れい)
験(げん)あらたなり真言(しんごん)には〽《割書:もうけるさんだんだアまんざらそんなら見きろ|かなア そりやこそうんならあたつたア》常(つね)