翻刻
【右丁】
青楼(せいろう)全盛(せんせい)の桜見(はなみが)岡(をか) 二品(にほん)堤(つゝみ)の中央(ちうわう)逢門(あふもん)の中(うち)にあり
有頂(うてう)天神(てんじんの)社(やしろ) 《割書:便(たよ)りを待(まつ)王(わう)つかつた穴(あな)を埋(うめ)王(わう)いづれも桜丸(さくらまる)に
|自腹(じはら)をきりしあとなり祭礼(さいれい)紋日(もんひ)もの日にあり》
通(かよ)ふ神(かみ) 《割書:通(つう)も不 通(つう)も生気木(なまぎゝ)も老若(らうにやく)男女(なんによ)おしなへてこの神(かみ)の利益(りやく)□【にヵ】|あづからずといふ事なし客人(きやくじん)大明神(たいめうじん)とあはせまつる》
太夫(たいふの)松(まつ) 緑(みどり)といへる頃(ころ)より苦海(くがい)の中(うち)に育(そだち)太夫(たいふ)の松(まつ)に至(いた)るこれを
大心木(おほしんき)といふ子(こ)を捨(すて)る藪(やぶ)につゞき嘘(うそ)の川(かは)の水上(みなかみ)流(なが)れの身(み)にして客(きやく)を
止(とゞ)むる柵(しがらみ)あれども真実(しんじつ)の水(みづ)泡(あわ)と消(きえ)客(きやく)に偽(いつわり)多(おほ)き世(よ)となりては
手鳥(てとり)空鳴鳥(そらなきとり)の手 管(くだ)に及(およ)ばず泣(ない)て嬉(うれ)しき宵(よひ)もあり笑(わら)ふて
愁気(つらき)後朝(きぬ〴〵)もまたの逢瀬(あふせ)は風(かぜ)次第(しだい)と繋(つなぎ)かねたる捨(すて)小舟 爰(こゝ)
に便船(びんせん)する傾城(けいせい)傾国(けいこく)といふ放蕩(ほうたう)者(もの)ありて嘘(うそ)の川(かは)に堕落(おつこち)
身代(しんだい)を硯蓋(すゝりぶた)の蓮根(れんこん)よりも多(おほ)く穴(あな)をあけ大平(おほひら)の焼麸(やきふ)の如(こと)く
【右丁枠外左下部】
道中二ヘン 廿四
【左丁】
迦蘭胴(からんどう)となして勘堂(かんだう)の別当(べつたう)真裸(まつはだか)宗好院(そうこうゐん)となる是(これ)国(くに)を傾(かたふ)け
城(しろ)を傾(かたふ)け家(いへ)を傾(かたふ)け身(み)を失(うしな)ふ男(をとこ)に傾城(けいせい)の名(な)はありといふ遊女(いうちよ)
の客(きやく)に媚(こび)て愛(あい)をもとむるは渡世(とせい)にゆだんなきものなり
山(やま)の神(かみ)の祠(ほこら) 妻皆(さいかい)同(どう)嫉妬(やきもち)坂(ざか)の真中(まんなか)にあり口八丁(くちはつちやう)手八丁(てはつちやう)にもありと
いふ相伝(あいつたへて)曰(いふ)加家阿(かゝあ)左衛門(さゑもんの)情(じやう)女房(にようぼ)於乱(おらん)といふもの七去(しちき[よ])兼備(けんび)にして
女大将(をんなたいしやう)と呼(よ)び竈(かまど)将軍(しやうぐん)と申 我儘(わがまゝ)気儘(きまゝ)の豪傑(がうけつ)にして思(おも)ひ邪嶋(よこしま)
に身(み)の城(しろ)を構(かま)へ朝寝(あさね)正好(しやうすき)昼成(ひるなり)奇験界(きげんかい)の湊(みなと)に出張(でばり)て尻癖(しりくせ)
悪(あ[し])き我(わか)軍配(ぐんばい)を弁(わきま)へず日酒(ひざけ)大酒(おほざけ)にあるないの舌戦(ぜつせん)絶(た)へず癇(かん)
癪(しやく)向腹(むかはら)に剣(けん)の峯(みね)を見(み)せ付(つけ)不理屈(ふりくつ)に柄(ゑ)をすげ口鉾(くちほこ)となし
亭主(ていしゆ)を小児(せうに)のごとくに扱(あつか)ひ軍兵(ぐんひやう)を指揮(しき)して差出口(さしでぐち)をきゝ