翻刻
【右丁】
詠哥(ゑいか) 父(ちゝ)のすね母(はゝ)の乳(ちゝ)こそ恋(こひ)しけれ遊(あそ)んで喰(くら)ふ事(こと)のならねば
鼻欠地蔵堂(はなかけぢぞうだう) 若時(わかいとき)の身持(みもち)放蕩(はうたう)瘡毒(さうどく)のため鼻欠(はなかけ)の尊像(そんぞう)となる
愚転堂(ぐでんだう) 夜前大酒(やぜんたいしゆ)に浮(うか)れ散財(さんざい)金入(かねいれ)をはたき米(こめ)がないに差(さし)
支(つかへ)たる頭痛(づつう)鉢巻(はちまき)よせばよかつたといふ後悔道(こうくわいだう)の迷所(めいしよ)
此辺(このへん)すべて宵越(よひごし)の金銭(きんせん)を貯(たくは)へず元日(ぐわんじつ)に大晦日(おほみそか)を思(おも)はず毎月(まいつき)
晦日(みそか)にいたり店賃(たなちん)の才覚(さいかく)につまる風俗(ふうぞく)にして臍(ほぞ)を噛事(かむこと)定(ぢやう)
例(れい)なり〽あすありと思(おも)ふ心(こゝろ)の山桜(やまざくら)夜(よる)は嵐(あらし)の吹(ふか)ぬものかは ̄ト いふ
古哥(こか)を手前考(てまへかん)【手前勘とあるところ】に注(ちゆう)を付(つけ)一寸先(いつすんさき)は闇雲峠(やみくもたうげ)向(むか)ふ水(みづ)に世(よ)を渡(わた)り
儘(まゝ)よ儘(まゝ)の川(かは)の流(ながれ)光陰(くわういん)の矢(や)よりも迅(はや)く往成(ゆきなり)三方(さんばう)の峯(みね)にひま
ゆく駒(こま)を乗掛(のりかけ)後悔(こうくわい)こゝに至(いた)つて詮(ぜん)なき悪風(あくふう)なり児童(こどもしゆ)謹(つゝしん)で
【左丁】
この道(みち)に入(いり)給ふな
苔野一心事(こけのいつしんじ) こけの細道(ほそみち)にあり野暮天神(やぼてんじん)を遷(うつ)し祀(まつ)る食(くは)ず貧(ひん)
楽寺(らくじ)境内(けいだい)つゝ〳〵一(いつ)ぱいの宮居(みやゐ)なり我(わが)いへ楽(らく)の釜(かま)が淵(ふち)は古(ふる)
川(かは)の水(みづ)たえず流(なが)れ苦労(くらう)もなき道(みち)すじ気楽(きらく)にして福禄(ふくろく)
道(だう)安楽(あんらく)の道(みち)すじなりねんりき岩(いは)あり
道楽事(だうらくじ)五重(ごぢう)の宝塔(はうたふ) 無分別性人(むふんべつしやうにん)造立(ざうりふ)
出世(しゆつせ)の道(みち)に至(いた)る事(こと)あたはず寧(いつそ)浮世(うきよ)を夢(ゆめ)にして呑(のみ)倒(たをれ)あれば
あり桐(きり)の木(き)を以(もつ)て造(つく)り年中(ねんぢう)質屋(しちや)の奉公(はうこう)ばかりして《振り仮名:上ケ下ケ|あげさげ》
世話(せわ)しき放蕩(はうたう)なり自(みづか)ら嘆(たん)じて云(いふ)一升入(いつしやういり)瓢(ふくべ)は一升(いつしやう)入(いる)蝿取(はいとり)
蜘蛛(ぐも)に袋蜘蛛(ふくろぐも)挊(かせ[い])でも追付(おひつく)貧乏(びんぼう)あれば気儘(きまゝ)に暮(くら)すが