翻刻
【右丁】
一生(いつしやう)の得(とく)なりと擬(ゑせ)賢人(けんじん)の心(こゝろ)にいへども内心(ないしん)は金銭(きんせん)が抓(つかみ)つく
ほど欲(ほ)しく高味(うまいもの)は喰(くは)ず嫌(ぎら)ひ不勝手(ふかつて)ゆへの出(で)ぎらひは是(これ)も
損者(そんじや)の伝法(でんほふ)にて性事(しようこと)なしの負(まけ)をしみ搭々(たふ〳〵)仕舞(しまひ)が至極(しごく)の
体想(ていさう)火(ひ)の車(くるま)の苦患(くげん)あり随徳寺(ずいとくじ)へ至(いた)る脇道(わきみち)もありと云
借(かりる)ゲ大名人(だいめいじん) 此神(このかみ)は地蔵(ぢざう)菩薩(ぼさつ)の如(ごと)き顔(かほ)にて口説(くどき)つ頼(たの)みつ
借(かり)るが最期(さいご)返(かへ)さぬ木(き)真平(まつひら)誤(あや)まつた居(ゐ)なり 大名神(たいみやうじん)
不居(ゐず)言元(ごんげん)と留守(るす)をつかふ催促(さいそく)の言(いひ)わけに詰(つま)りて切金(きれがね)の
返済(へんさい)忽地(たちまち)以前(いぜん)の地蔵(ぢざう)に引替(ひきかえ)焰魔大王(ゑんまだいわう)の如(ごと)くたゞ
とられるやうに思(おも)ふ身体(しんたい)なり
厄介(やつかい)の峰(みね) 親分山(おやぶんさん)店請印(たなうけいん)借(かり)ぬは損者(そんじや)亡命(かけおち)の旧地(きうち)逃(にげ)るが
【左丁】
一(いち)の谷(たに)あかん弁慶(べんけい)それがよし経(つね)逆落(さかおと)し掛取越(かけとりごえ)といふ
借金(しやくきん)引請(ひきうけ)雑物(ざふもつ)の百貫(ひやくくわん)の形(かた)に編笠(あみがさ)一葢(いつかい)○一ツ竈(へつつひ)
○猫(ねこ)の椀(わん)蚫貝(あわびかひ)にやんまみだ仏(ぶつ)の名号(みやうがう)◦古畳(ふるたゝみ)四畳(よぢやう)のけさ【左に:今朝】
等(とう)なり
金沢山(かねたくさん)福禄延寿隠(ふくろくゑんじゆいん) 当山(たうざん)は正直(しやうぢき)正路(しやうろ)の真直(まつすぐ)なる
道(みち)にて宝(たから)の山(やま)安楽(あんらく)の都(みやこ)といふ四方(しはう)金銀(きん〴〵)の岩山(いはやま)にて堅(かた)
い身代(しんだい)と云(いは)るゝ霊場(れいぢやう)也 白壁造(しらかべづく)り棟(むね)をならべ黄金(わうごん)のうなる
声(こゑ)高(たか)く聞(きこ)えて目出滝(めでたき)には出世鯉(しゆつせごい)つねに昇(のぼ)り笑(わら)ふ
門(かど)には福(ふく)をむかへて波風(なみかぜ)たゝぬ初春(はつはる)を万(ばん)〳〵歳(ぜい)と
祝(しゆく)す霊山(れいざん)なり