翻刻
【右丁】
みかへるあとはふちうなる。げにこのところは
をとにきく。あべ川かみ子【紙子】といへるなんあれば
我等(われら)が。ごふく所(しよ)の多(をゝき)所なりとふくかせも身
にします。おかべふぢえだしまだ過(すき)。うたて
きかなや。長たひのつかれいかにとせんかたな【注①】
つかひぜに【注②】ゝもさやづまる。さやの中(なか)山中〳〵
にきえぬいのちぞうらめしき。小川さかにこ
そ付(つき)にけれ。此ほとりにくにゝ聞えしわらび
もちやなんありしばし立より。こまをを
さへておもひ出る実(げに)やもろこしの伯夷(はくい)叔斉(しゆくせい)は
【左丁】
けがれたる世の粟(あは)をはまじとて首陽(しゆやう)の
おくにわらびをとり千(せん)さいにひじりの名
をのこせしがこのところにもかゝる人やは
あるへきかのあたりを見わたせば八十のお
きなもみとせのわらはべも馬子(まご)も飛脚(ひきやく)も
をしなへて名(な)あるもちをそたへにける主(しう)
従(じう)もじゆんのこぶし【注➂】のことはさにわり”子【ご】【注④】やう
のものとりいて□【たヵ】ひのくたびれなぐさみけ
る 竹斎
首陽山(しゆやうさん)にとりしわらびのもちならば
【注① なすべき手段・方法がない。】
【注② 小遣い銭。】
【注➂ 順の拳に外(はず)るな=仲間はずれにならない様にせよとの意。】
【注④ 破籠=食物を容れる器。】