← 前のページ
ページ 10 / 169
次のページ →
翻刻
【右頁】
よくやしなひ得(ゑ)て千年(せんねん)の青(あを)き操(みさほ)をあらはし七尺の
人も壱尺の時をよくそだて得(ゑ)て百年の壽(ことぶき)をたも
つ事をしるべきなり
㊁誕生(たんじやう)の説(せつ)
◯父母(ふぼ)和合(わがう)してその両精(りやうせい)子宮(こぶくろ)に入る一月は珠露(しゆろ)のごとし
とて其 形(かたち)たゞ一圓水(いちゑんすい)の露(つゆ)の玉(たま)に似(に)たり萬(よろづ)の木実(このみ)の
初(はしめ)てむすぶ時もその内みな水なるがごとし二月は桃花(もゝのはな)
のごとしとてすこしく其形(そのかたち)をあらはすまづ臍帯(ほそのお)胞(ゑ)
衣(な)よりできはしめ漸(ぜん)〻(〴〵)に其かたち成就(じやうじゆ)して児(ちご)その胞(ゑ)
衣(な)を頭(かしら)にいたゞくこれ萬の 種(たなつ)【助詞「つ」の重複】つ物を植(うゆ)るにその芽(め)を
出す時は土中(どちう)より 孚甲(ふかう)をいたゞきて二葉(ふたば)生出(おひいづ)るなり
【左頁】
孚甲(ふかう)とは種(たな)つ物の上の殻(から)をいふそのごとく児子(ちご)生(むま)れ下
れは袍衣(ゑな)はしばらく母(はゝ)の胎内(たいない)に残(のこ)り半時(はんじ)一時(ひととき)の内にすな
はち下るなりその時 臍帯(ほそのお)を断(たち)て後(のち)は種つ物の 孚甲の
ごとく人の胞衣も臍帯も無用(むよう)の物となる也此胞衣は
父母(ふぼ)の一點(いつてん)の両精(りやうせい)珠露(しゆろ)のごときといふ時より一圓相(いちえんざう)【注】
の外(ほか)をつゝむ衣(ころも)なり道家(だうけ)にこれを混沌衣(こんとんゑ)と名付(なづく)るを
もてそのことはりをしるべし千金論(せんきんろん)に胎内(たいない)の児(ちご)のかた
ちを載す一月は珠露(しゆろ)のごとく二月は桃(もゝ)花のごとく三
月にして男女のかたちわかる四月にそのかたち全(まつた)くそ
なはる五月に五藏(ござう)生(しやう)じ六月に六 府(ふ)成就(じやうじゆ)す七月に關(くはん)
竅(けう)通(つう)ず《割書:關竅(くはんけう)とは關節(くはんせつ)九竅(きうけう)の事也關節とは形(かたち)のつがひ手足(てあし)の|伸(のび)屈(かゞみ)する所をさしていふ九竅とは目(め)二つ耳(みゝ)二つ鼻(はな)二つ口一つ》
【注 一圓相 禅における書画のひとつで、図形の丸を一筆で描いたもの。】