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【右頁】
相(あい)さり相 別(わかれ)れてその親子(おやこ)といふ事をだにしらぬ鳥(とり)獣(けだもの)
すらみなひとつ心なるにや夜(よる)の鶴(つる)の巣(す)になき【注①】 臥(ふす)猪(ゐ)【注②】の
おそろしきもかるも【注③】のうちに子をひたす【注④】これその子の生(おひ)
先(さき)を見其子をおほし立て老(おい)の後(のち)を養(やしなは)れんとにもあら
ずたゝわりなき恩愛(おんあい)のなす所しかる事を期(ご)せずして
しかるものなりまひて人の親(おや)として其子(そのこ)をいつくしま
ざるべけんやいにしへの聖人(せいじん)慈幼(じよう)をもて六養(むつのやしなひ)のひとつと
し給ふ故(ゆへ)ある事にぞ生(せい)〻(〳〵)子(し)の説(せつ)に十(とをの)男子(なんし)を治(ぢ)すると
も一婦人(ひとりのふじん)を治(ぢ)しがたく十婦人(とおのふじん)を治するとも一小児(ひとりのせうに)を治(ぢ)し
がたしとありて小児(せうに)の療治(りやうぢ)は大人(たいじん)よりもむつかしき
業(わざ)に定置(さためおき)たる事なりいはんや世の人 醫(い)の道理(だうり)をし
【注① 白居易(字は楽天)の『新楽府』にある詩の「第三第四弦冷冷、夜鶴憶子籠中鳴」による。巣ごもりして鳴く鶴の声は子を思って鳴くというところから、子を思う親の愛情をたとえていう。】
【注② 寝ている猪。】
【注③ かるも=枯草。猪が枯草などを集めて作った寝床を「臥す猪の床」といわれる。】
【参考 歌論書『八雲御抄』 巻第六 用意部 (寂蓮法師がいひけるは、「歌の様にいみじきものなし。ゐのしゝなどといふ恐ろしき物も、『ふすゐのとこ』などいひつればやさしきなり。」といふ。) 『徒然草』第十四段に、(おそろしき猪のししも「ふす猪の床」と言へば、やさしくなりぬ。)】
【注④ 「ひだす」とも。養い育てる。】
【左頁】
らねば児子(ちご)を養育(やういく)する業(わざ)にくらくやゝもすれは生育(せいいく)【「そだち」左ルビ】
しかだし【しがたしヵ】あはれむべき事なり《割書:啓益|》つねにひとつのたとへ
をあげて養育の道にうとき人をさとすいま木を植(うゆ)る
を見よ分寸(ぶんすん)の苗(なへ)を植(うへ)てその木 尺(しやく)にあまるまでの時(とき)を
よく培(つちか)ひ水(みづ)そゝぎ虫蟻(むしあり)などのわざはひなきやうにし
てその芽(め)をおらぬやうに心を付て二三尺までもそだ
てぬれば其後は大抵(たいてい)にしても其木かならず合抱(だきまはす)ほどの
大木(たいぼく)となる一寸の時より二三尺までの内をよくそだて
ざるときは合抱(だきまはす)ほどの木となる㔟(いきおひ)ありとても幹(から)ほそく枝(ゑだ)や
せて何(なに)の用(よう)にも立ちがたしあまつさへ二三尺をまたず
して枯落(こらく)するがごとしされは百尺(ひやくしやく)の松も一寸の時を