東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 2

小児必用養育草 - 翻刻

小児必用養育草 - ページ 9

ページ: 9

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【右頁】 相(あい)さり相 別(わかれ)れてその親子(おやこ)といふ事をだにしらぬ鳥(とり)獣(けだもの) すらみなひとつ心なるにや夜(よる)の鶴(つる)の巣(す)になき【注①】 臥(ふす)猪(ゐ)【注②】の おそろしきもかるも【注③】のうちに子をひたす【注④】これその子の生(おひ) 先(さき)を見其子をおほし立て老(おい)の後(のち)を養(やしなは)れんとにもあら ずたゝわりなき恩愛(おんあい)のなす所しかる事を期(ご)せずして しかるものなりまひて人の親(おや)として其子(そのこ)をいつくしま ざるべけんやいにしへの聖人(せいじん)慈幼(じよう)をもて六養(むつのやしなひ)のひとつと し給ふ故(ゆへ)ある事にぞ生(せい)〻(〳〵)子(し)の説(せつ)に十(とをの)男子(なんし)を治(ぢ)すると も一婦人(ひとりのふじん)を治(ぢ)しがたく十婦人(とおのふじん)を治するとも一小児(ひとりのせうに)を治(ぢ)し がたしとありて小児(せうに)の療治(りやうぢ)は大人(たいじん)よりもむつかしき 業(わざ)に定置(さためおき)たる事なりいはんや世の人 醫(い)の道理(だうり)をし 【注① 白居易(字は楽天)の『新楽府』にある詩の「第三第四弦冷冷、夜鶴憶子籠中鳴」による。巣ごもりして鳴く鶴の声は子を思って鳴くというところから、子を思う親の愛情をたとえていう。】 【注② 寝ている猪。】 【注③ かるも=枯草。猪が枯草などを集めて作った寝床を「臥す猪の床」といわれる。】 【参考 歌論書『八雲御抄』 巻第六 用意部 (寂蓮法師がいひけるは、「歌の様にいみじきものなし。ゐのしゝなどといふ恐ろしき物も、『ふすゐのとこ』などいひつればやさしきなり。」といふ。) 『徒然草』第十四段に、(おそろしき猪のししも「ふす猪の床」と言へば、やさしくなりぬ。)】 【注④ 「ひだす」とも。養い育てる。】 【左頁】 らねば児子(ちご)を養育(やういく)する業(わざ)にくらくやゝもすれは生育(せいいく)【「そだち」左ルビ】 しかだし【しがたしヵ】あはれむべき事なり《割書:啓益|》つねにひとつのたとへ をあげて養育の道にうとき人をさとすいま木を植(うゆ)る を見よ分寸(ぶんすん)の苗(なへ)を植(うへ)てその木 尺(しやく)にあまるまでの時(とき)を よく培(つちか)ひ水(みづ)そゝぎ虫蟻(むしあり)などのわざはひなきやうにし てその芽(め)をおらぬやうに心を付て二三尺までもそだ てぬれば其後は大抵(たいてい)にしても其木かならず合抱(だきまはす)ほどの 大木(たいぼく)となる一寸の時より二三尺までの内をよくそだて ざるときは合抱(だきまはす)ほどの木となる㔟(いきおひ)ありとても幹(から)ほそく枝(ゑだ)や せて何(なに)の用(よう)にも立ちがたしあまつさへ二三尺をまたず して枯落(こらく)するがごとしされは百尺(ひやくしやく)の松も一寸の時を