← 前のページ
ページ 11 / 169
次のページ →
翻刻
【右頁】
《割書:前後(ぜんご)の二つの穴を|合て九竅といふ》八月に其 魂(たましゐ)あそぶ九月には三度其身を轉(てん)
ずる也十月には氣(き)をうけたると云へりすてに十月の日数(ひかず)
みつる時は児子(ちご)夢(ゆめ)の覚(さめ)るかごとくにして子宮(こふくろ)をおし
わかち道をもとめて生(むま)れ出(いづ)るなりこれを分娩(ふんめん)の時
といふ分娩(ぶんめん)とは和訓(わくん)さねばなれとよみて木實(このみ)の熟(じゆく)し
て肉(にく)と核(さね)とわかれはなるゝかことく又は瓜(うり)の熟(じゆく)しておの
づから蔕(ほぞ)の落(おつ)るごとく母(はゝ)の胎内(たいない)をはなれて生(むま)れ下
るなり
◯児子(ちご)母の胎内(たいない)を出て生るゝ時その口のうちに穢毒(ゑどく)を
ふくむ穢毒(ゑどく)とは胎内のけがれたる悪汁(あしきしる)をいふ児子の啼聲(なきごへ)
にしたがひ口中にふくむ所のけがれたる物 咽(のんど)にいれば腹(はら)の
【左頁】
うちにかくれ後(のち)には萬の病(やまひ)となるなり生れ下るとそのそのまゝ
輭(やはらか)なる絹(きぬ)を指(ゆび)にまきて口中にふくむ所のけがれたる悪(あしき)
汁(しる)をぬぐひ去(さる)べしかくのごとくすれは胎毒(たいどく)の病(やまひ)なしと
保嬰撮要(ほうゑいさつよう)【注】といふ書(ふみ)に見えたり
◯王隱君(わうゐんくん)の説(せつ)に児子生れ下りて啼声(なきごゑ)を待(また)ずして
まづ甘草(かんざう)の汁(しる)に絹(きぬ)をひたし指(ゆひ)をつゝみて舌(した)の下の
けがれたる悪汁(あくじう)を拭(ぬぐひ)ひ【重複ヵ】去(さる)べし胎毒の病を生(せう)ぜすとい
へり此 法(はう)をなせば児子生れざるまへに甘草(かんざう)をきざみ
五分ほど布(ぬの)の薬袋(くすりぶくろ)に入てたくはへ児子生るゝとそのまゝ
此薬袋を𤍽(あつ)湯(ゆ)にひたし汁(しる)を出(いだ)して上(かみ)にいふ所のご
とく口中をぬぐふへしかくのごとくする事 我(わか)日本(ひのもと)に
【注 薛鎧の『保嬰撮要』全二十巻 1556年】