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【右丁】
○兔(と)血丸(けつぐわん)といふ妙方あり十二月八日に兔(うさぎ)をとりて午(むま)
の時をうかゞつて刺(さし)て血(ち)を取(とり)て蕎麦麪(そばのこ)に和(くは)し
雄黄(おわう)【「ゆうお(わ)う」のこと。】少ばかり加(くは)へ乾(かはく)をまつて菉豆(りよくづ)の大さに丸(ぐわん)して
小児の年の数(かず)に応(おう)じて用るなり保寿堂(ほうじゆどう)の方と
本草綱目(ほんざうかうもく)に載(のせ)たり 本邦(ほんほう)にては国守(こくしゆ)領守(りやうしゆ)ならでは
此方を調合(てうがう)しがたし此方を調合(てうかう)するに口伝(くでん)あり医(い)
書(しよ)にいふ所のごとく兔(うさぎ)の血(ち)に蕎麦麪(そはのこ)を入て丸ずる
とばかり心得ては手につきねばりてまろめかたし兔
の血をとりて磁器(やきものはち)に入て二時ばかり過る時は上は水に
なりて血は下に凝(こり)てかたまるなりその時上の水を
したみて捨て凝(こり)たる血の中に蕎麦麪(そはのこ)をかきまぜ
【左丁】
てつき合せ雄黄(おわう)少ばかりいれ又は家伝(かでん)によりて辰(しん)
砂(しや)少 碾茶(ひきちや)少 加(くはふ)もありかくのごとくせざれは丸(ぐわん)じにくゝ
してしかもその薬性(やくしやう)もうすくして験(しるし)なきなり《割書:予(よ)》さき
に仕(つか)へし比(ころ) 君命(くんめい)によりて此 方(はう)を調合(てうがう)する事 度々(たび〳〵)
にしてよく調合(てうがう)の工夫(くふう)を得(ゑ)たるなり扨此薬を痘瘡(いも)
流行(りうかう)する時にいたれは国中(こくちう)に頒(わかち)たうびけるその民(たみ)を
恵(めぐ)み給ふ御こゝろざし有難(ありがた)き事にぞ侍る
○趙侍郎(てうじらう)が方に苦楝子(くれんし)をとりて多少にかゝはらず煎(せん)
湯(たう)にして小児に浴(ゆあみ)すれば痘瘡(いも)をうれへずたとひうれ
ふれども数(かず)すくなく出て軽(かろ)きなりと見えたり苦楝子(くれんし)
は和俗(わぞく)いふ所のせんたんの木の実(み)の事なり