← 前のページ
ページ 14 / 169
次のページ →
翻刻
【右頁】
いひて中花の書(ふみ)に多くのせ侍れと 本邦(ほんほう)にては其 益(ゑき)少(すくな)
したゞ黄連(わうれん)の法と蜜薬(みつぐすり)とを用てよろし其外 本邦
の小児醫師(せうにいし)その家(いへ)〻の秘(ひ)方の五香湯(ごかうたう)とて初生(しよせい)に用る
薬(やく)方あり多くは藿香(くはつかう)木香(もつかう)丁香(ちやうかう)沈香などの入たる薬剤(やくざい)
にて病なき小児に益なし用ずして可(か)なりしきりに黄
連の法又は蜜薬とを用てけかれたる物を吐(はき)出さすべし吐(はき)つ
くして後は甘草少はかり用てよし
㊃児子 取擧様(とりあげやう)の説(せつ)
◯児子(ちご)生れ下る時其 啼聲(なきごゑ)を待(また)ずして甘草のひた
し汁(しる)に絹(きぬ)をつけて指(ゆび)をつゝみ児子の口中をぬぐひ又は蜜
薬黄連の法などを用ひ収婆(しうは)【「ばゝ」左ルビ】に命(めい)じてまづ臍蔕(ほそのお)を
【左頁】
断(たち)て産湯(うぶゆ)をなして取擧(とりあぐ)る事これ 本邦(ほんほう)の俗習(ぞくしう)な
り産湯をなす所 戸障子(としやうじ)をさし或は屏風(べうぶ)を引まはし
て風のいらぬやうにしつらひて浴(ゆあみ)すべきなり
◯難産(なんざん)の時は多(おほ)く母(はゝ)にのみ心を付て児子の事におよば
す取擧(とりあぐ)る事おそければ冬月(ふゆのつき)は寒気(かんき)におかされ生子こゞ
へて死(し)するに至(いた)る事多し此時はまづ臍蔕(ほぞのを)を断(たつ)べから
ずすみやかに絮(わた)をあぶりあたゝめ児子をつゝみて懐(ふところ)に
抱(いだ)き胞衣(ゑな)を火にてあたゝめ大きなる紙燭(しそく)をとりて臍(ほそ)
蔕(のお)の上を往來(わうらい)して焼切(やききる)べしかくのごとくすれば暖(あたゝか)なる
気児子の腹(はら)のうちに通(つう)じてしばらくの間に元気(げんき)甦(よみがへり)て
生(いき)出るなり尤 浴(ゆあみ)する事をいむなりと保嬰撮要(ほうゑいさつよう)【注】に見え
【注「保嬰撮要」 1556年に出版された小児医学書 薛鎧著、薛己注釈】