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【右頁】
◯王隠君(わうゐんくん)の説に生れ子を洗(あら)ふ湯には猪膽汁(ちよたんじう)少ばかり
いれて浴すべし瘡(かさ)癤(ねぶと)を生する事なしと云へり猪膽
汁とはぶたのきものしるなり和俗 猪(ちよ)の字をあやまりて
ゐのしゝと心得たる者多しゐのしゝは本草に野猪(やちよ)と
のせたり猪とばかりはぶたの事なり生々子の説には生
子をあらふには五木(ごもく)の湯を用へし五木とは桑(くは)槐(ゑんじゆ)楡(にれ)桃(もゝ)
柳をいふなりと云へり《割書:啓益|》按(あん)ずるに此事 本邦(ほんほう)にて
はいにしへより今にいたつてせざるわざなり然れ共を【近ヵ】
日の風俗なま物じりとやらんにて中花(もろこし)にてする事と
いへはその善悪をも考(かんがへ)ずみだりになすものあり児子
いま母の胎内(たいない)を出ていまだ日のめ風のめをも見ぬ時なれ
【左頁】
ば薬湯の氣にたゝ【えヵ】ずかへつて病を生ずる者多し
常(つね)の湯を用(もちゐ)て洗ふべし薬湯を用事なかれ十餘ケ
日を経て後は薬湯にて洗ひたるもよし
◯生々子(せい〳〵し)の説に初めて生れたる児子を洗ふ■【事ヵ】第三日に
浴する事は俗禮(ぞくれい)の定りたる所なれ共生子 虚弱(きよじやく)にして
病あらは日数にかゝはらず十餘日をまちて後 浴(ゆあみ)すべしと
云へり然れは中花(もろこし)にては生れ下て必第三日めをまちて
洗ふ事定りたる俗礼と見えたり 本邦近来の風俗
は生れ下るとそのまゝ取擧(とりあげ)て浴するなり拾芥(しうがい)抄を考
ふるに初生(しよせい)の小児 沐浴(もくよく)の吉日を載(の)す丑(うし)卯(う)酉(とり)乙未(きのとのひつし)丙【「ひのへ」左るび】
午(むま)丁酉(ひのとのとり)或は寅(とら)申(さる)此等(これら)の日をえらび東流水(とうりうすい)を汲て用