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【右頁】
◯初生(しよせい)の小児(せうに)に乳を吸(のま)しむる事生れ下てより六時
ばかり過て後 乳付(ちつけ)の人の乳を飲(のま)しむべし其まへはたゞ
蜜薬(みつくすり)又は黄蓮(わうれん)甘草(かんさう)などの汁(しる)を吸しめてけがれたる
物を吐出(はきいた)させてよし生々子の説に初生の小児に乳
を飲しむる事 早(はや)けれは胎毒をこらして変(へん)じて萬の
病となると云へり
◯千金方(せんきんはう)【注】に初生の児子(ちご)に乳を早く飲しむる事な
かれ半日又は一日ばかり過て後飲しむへし早けれは養(やしな)
ひがたしと見えたり《割書:啓益|》按ずるに凢(およそ)母の子を産(う)む事
是 天理(てんり)の自然(しぜん)なれば母の乳汁(にうじう)出る時をまちて飲し
むる事自然の道理(たうり)なるべし 本邦にてもその國の
【左頁】
風俗によりて母の乳出ざるうちは蜜薬などを吸し
めて他人の乳を飲しめざる所あり母の乳にて養(やう)
育(いく)せんとおもはゞしきりに乳房(ちぶさ)をもみやはらげて
三四 歳(さい)ばかりの女子(おんなのこ)に吸(すは)しめ又は生子にも吸しむれは
二三日を待ずして或は半日又は十時ばかりのうちに産(さん)
婦(ふ)の乳出るものなりそれより直(すぐ)に母の乳を飲しめて
育(そだ)つべきなり昔(むかし)源(みなもと)の義経(よしつね)奥州落(おうしうおち)の時 北陸道(ほくろくたう)にさ
まよひ給ひ【日】し頃 亀破坂(かめわりざか)といふ深山(みやま)にて御䑓所(みだいところ)産(さん)し
給ふに乳付の女乳母などゝいふもなかりけれ共其子そ
だちて奥州(おうしう)へ着(つき)給ひ【日】たるためしあればよその乳
を用ずして母の乳を以そだつ事なるべし然れば位(くらゐ)
【注「千金方」「せんきんほう」 孫思邈「そんしぼう」著 唐代652年、原本は30巻。人名は千金より重いという意味の書名をつけた医学書。千金要方とも言う。医学総論、本草、製薬、婦人科、小児科、内科、外科、外毒、備急、養生、脈診、鍼灸、導引などを網羅している。】