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【右頁】
高(たか)くやんごとなき御 方(かた)さま家(いへ)富(とみ)財(ざい)たれる人たり共
産母(さんぼ)病(やまひ)なく乳汁(にうじう)も潤沢(じゆんたく)ならば母の乳を飲(のま)しめて養(やしな)
ふ事天理の自然(しぜん)をおこなふの事なるへし聖人(せいじん)の
教(をしへ)にも凢(およそ)子を産(さん)しては諸母(しよぼ)と可(か)なるものを撰(えら)んで
子を養育(やういく)すべしと見えたり諸母とは衆妾(しうせう)の事なり
と注せり日本にては御局(おつぼね)女房(にうほう)達(たち)などの事にして乳
母の事をいはず可(か)なる者とは人柄(ひとがら)のよきをいふなりこれ
によれば中花(もろこし)もいにしへは母の乳を以 養育(やういく)せし事を
しるへしと時の人もし此理をさとして母の乳を以養
育せまくおもはゞ物 静(しづか)にして人 柄(から)よき女の四十ばかり
なるを撰(えら)び乳母(にうぼ)のごとく其児子を抱(いだ)かしめてなじみ
【左頁】
したしましめて母は乳はかりを飲しむべしかくのごとく
すれは三年め四年めにその次〻の子を出生して母も
病なくしてよろし然るに産婦(さんふ)もすくやかに乳も
潤沢(じゆんたく)なる者乳母を召(めし)つかひ其乳を飲しめてしゐて
母の乳を断(たつ)ときは血脈(けつみやく)【「脉」は「脈」の俗字】さかんにして大形(おほかた)毎年(まいねん)懐妊(くわいにん)を
なし其身もはからざるの苦(くる)しみをうけ多産(たさん)の上(うへ)
にては終(つゐ)に死(し)するに至(いた)るもの多しその上生るゝ子も
虚弱(きよじやく)にして病多しいはんや家(いへ)貧(まづ)しく財(ざい)とぼしき
人は猶更(なをさら)母の乳を飲しめて養育(やういく)すべき事なり
然れ共今時の人は多くは懐胎(くはいにん)の中其 身持(みもち)あしき故
産(さん)するの時 元気(げんき)よはく其 血(ち)多く脱(もぬ)く或は難産(なんさん)の