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【右頁】
母に薬(くすり)を服(ふく)すればかならず乳にさまたげ有とおぼえたる
者 多(おほ)しことに乳などの出(いで)さるに薬を用事を嫌(きら)ふやま
ひある時薬を服せずんはその病いかにして愈(いゆ)べき病 愈(いへ)ず
んばいよ〳〵乳母 気(き)苦(くる)しみて乳の出る時有べからず和俗
の諺(ことわざ)にいへるごとく御乳(おちの)人の乳のあがりたるとて物の用に
たらぬたとへなるべし上(かみ)にいふ所のごとくすくなき乳を
のますれば児子 食(しよく)にとぼしきゆへ痩(やせ)つかれて病を生
ずるなり能々心得べきことなり
◯乳汁(にうじう)出(いで)ざる時に鯉魚(こいのうを)を味噌(みそ)汁にて煑(に)て食(しよく)すればよ
く出るものなり和俗 常(つね)にする事なり本草には
鯉(こい)魚 一頭(ひとかしら)焼(やき)細末(さいまつ)して一銭(いつせん)酒(さけ)にて用と見えたり鯉を
【左頁】
丸ながらそのまゝ黒焼(くろやき)にして用へし酒をのまぬ乳母は
食のとり湯(ゆ)にて用たるがよきなり
◯乳汁出さるに露蜂房(ろぼうぼう)を黒焼(くろやき)にしてめしのとりゆ又は
酒にても用てよし露蜂房(ろほう〴〵)とは深山(みやま)の木の梢(こずゑ)にかけたる
蜂(はち)の巣(す)の雨露(あめつゆ)にさらされしをいふなり本草(ほんざう)を考(かんがふ)るに
乳癰(にうよう)を治する事ありて乳汁(にうじう)を通(つう)ずるの事なしと
いへ共つねに用て其 驗(しるし)多(おほ)し用て妨(さまたげ)なし
◯乳(ち)出ざるには玉露散(きよくろさん)といふに加減(かげん)して用たるがよき也
加減玉露散(かけんぎよくろさん) 当帰(とうき) 白芍藥(びやくしやくやく) 桔梗(きゝやう) 川芎(せんきう) 白茯苓(ひやくぶくりやう)
天花粉(てんくはふん) 木通(も[く]つう)【注】 穿山甲(せんさんかう) 右八味 各(おの〳〵)等分(とうぶん)にして一服を
壱匁三分にして常(つね)のことくにせんじ用ゆべし乳母(めのと)の虚(きよ)
【注 振り仮名は「もつう」に見えますが、「もくつう」のことです。植物「あけび」の漢名。また、アケビの木部。消炎、利尿、通経、催乳の効がある。漢方生薬の一つ。】