← 前のページ
ページ 34 / 169
次のページ →
翻刻
【右頁】
衫(かたびら)を用べし冬(ふゆ)の時とても衫(かたびら)に綿(わた)を入て着(き)せしむべし
和俗(わぞく)これを布子(ぬのこ)といふ也 日本に綿(わた)の種(たね)を栽(うへ)し事は
桓武天皇(くはんむてんわう)延暦(えんりやく)十八年に天竺(てんじく)崑崙(こんろん)の人 舩(ふね)に漂浪(ただよひ)て
三河(みかは)の国(くに)に着(つ)く此人 綿(わた)實(たね)を持(もち)て來(きた)りて栽初(うへそめ)しより
日本國にひろまりけると類聚國史(るいじゆこくし)百九十九巻に載(のせ)たり
中頃の事にや世 乱(みだれ)て綿種(わたたね)を栽る事を失(うしな)ひて後は布に
わたを入て着けり近來(きんらい)文禄年中(ぶんろくねんぢう)の頃又 中花(もろこし)より伝(つた)へ來
り日本國中なべて綿種(わただね)を植(う)へ木綿(もめん)を織(おり)出して布(ぬの)に絮(わた)
を入れて着る事やみぬされどふるきをわすれずいまも木(も)
綿(めん)着物(きるもの)を布子(ぬのこ)といひ綿(わた)をは唐綿(とうはた)といふにや惣(そう)じて小児
の衣類こまかなる木綿を着せしむるもよし糸(いと)ぶと
【左頁】
き紬(つむき)もよしいづれもみな脇(わき)あけにして着せしむべきなり
或(あるい)は冬(ふゆの)月の生れ子或は元氣(げんき)虚弱(きよじやく)なる小児は多くは寒氣(かんき)
に堪(たへ)がたしふるき絹(きぬ)を用るもよし木綿(もめん)の類は小児に
よりて虱(しらみ)を生ずる者ありすべて小児の襁褓(むつき)尻當(しりあて)の
類は布にても木綿にてもよし尻當をしきりに取 替(かへ)て
大小 便(べん)の湿(しつ)にあたりしめざるべししめりたる襁褓(むつき)の類 腰尻(こししり)の
あたりにをく事久しけれはかならず肛門(こうもん)に瘡(かさ)を生しその汁(しる)
のつく所 皆(みな)瘡(かさ)となりて乳母(めのと)も其瘡をうつり家内(けない)にう
つり蜂起(ほうき)するものなり能々心を付べき事なり
◯小児に衣類を着せ替(かゆ)る時は戸障子(とせうじ)をさしまはし
帳(てう)【「とはり」左ルビ】をおろして火を燃し温(あたゝか)ならしめて着せ替(かへ)べしと
ころ