← 前のページ
ページ 47 / 169
次のページ →
翻刻
【右頁】
天神(てんじん)は雷(かみなり)となり給ふよしの俗説(ぞくせつ)あればこれに附会(ふくわい)する
にや是梅の核(さね)杏(あんず)の核(さね)いづれも大形(おほかた)その類同しきをもて
かく傳(つた)へ來(きた)るにや此梅の守(まもり)も児(ちご)におびさせてよろしかるべ
きなりすべて小児は心氣(しんき)うすく物におびえやすければ
雷などの時は乳母(めのと)の懐(ふところ)にしかと抱(いだ)きて驚(おとろ)かせぬやうにすべ
きなりかくいへば物に心えぬ愚(おろか)なる人はあまりに児を愛(あい)し
すごし少ばかりの雷の時もはや驚きて蚊帳(かちやう)を釣(つり)戸棚(とだな)
長持(なかもち)のうちにかくすやうにするによりていよ〳〵児におそ
ろしみをつけてそれをならつて性(せい)となりて長(おとな)となり
ても少の雷にも色(いろ)を青(あお)くし少の電(いなびかり)にも肝(きも)をひやし
て夏(なつ)の時 天(そら)くもりては人前(にんぜん)には出(いづ)る事ならぬ類の者(もの)多(おほ)し
【左頁】
糾(きう)〻(〳〵)たる武夫(ぶふ)の家(いへ)の小児(ちご)などをかくそだてなす事は
さて〳〵おろかなる事なるへし能〻心得べき事なり
○わが日本は神國(しんこく)にして神(かみ)をうやまひたつとふを風(ふう)【「なら」左ルビ】
習(しう)【「わし」左ルビ】とすれは小児(ちこ)の時は氏神(うぢがみ)産神(うふすな)又はその外にも神の
守(まもり)とて封(ふう)じたる札(ふだ)やうの物を衣帯(ころもおび)にくゝりつけて置(をく)
事なりかくのごとくすれば邪気(じやき)悪魔(あくま)をさくといふ
児は心氣(しんき)薄(うす)くよはければ邪気もをかしやすきものなり
外(ほか)よりなす事にして害(がい)のなき事なればすべき事なり
然れ共 愚(をろか)なる人は此事をたゞ㐧一の事とおもひ巫(かんなぎ)をめ
しあつめなどして児(ちこ)を見せ又は児の前にて祈祷(きとう)な
どをさするによりて鈴(すゞ)の聲(こへ)錫杖(しやくじやう)の音(おと)などに驚(おどろき)き児