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【右丁】
葱(ひともじ)の白根(しろね)二三寸ほときりて搗爛(つきたゞらか)して乳(ち)をしぼりて
盞(さかづき)に入れ葱(ひともじ)の汁(しる)を加(くはへ)て生子の口にそゝきいれ其上
にて乳を吮(すは)しむれは必(かならず)よく通(つう)ずるなりと嬰幼論(ゑいようろん)に見え
たり《割書:啓益》常(つね)に大小便通ぜず又乳をあます小児を治(ぢ)す
るに葱の白根(しろね)二寸ばかりに切て乳をしぼりて盞(さかづき)に入れ
重湯(ゆせん)にてあたゝめ此葱の白根をひたす事十 度(ど)ばかり
して小児にのましむれは共(とも)に験(しるし)をとる事多し是 秘(ひ)
蔵(さう)の事なり
○小児二三歳の比 別(べつ)に病といふ事もなく口より大便(たいべん)
を出(いだ)す症(せう)あり此事 奇怪(きくわい)なる症(せう)にして世に希(まれ)なる病
なり元禄の初年(しよねん)に京都(きやうと)五条(ごでう)あたりに此病を患(うれ)ふる児(ちこ)
【左丁】
ありけり種々(しゆゞ)【注】の医薬(いやく)をあたへ神(かみ)に仏(ほとけ)に祈(いの)る其 父母(ふぼ)たる
者 手足(てあし)を置(をく)に所なしその姨(おば)なる人もとはある大名(たいめう)に
宮(みや)づかへせしが年老(としおひ)ていまは南都(なんと)にあり或時京への
ぼり此事を見て涙(なんだ)を流(なが)し申けるはわれ若(わか)き時 草(さう)
紙(し)をよみけるに此事ありと覚(おぼ)えたり葱の白根(しろね)を
煎(せん)じてあたへて見よと云ければ父母 悦(よろこ)びいそき葱
の白根を煎し一日一夜に五六度 宛(あて)用る事二七日に
して大便の口より出る事やみて一月の後に怪(あや)し
き虫(むし)の蛇(へひ)のごとくなるを下して再(ふたゝ)び発(おこ)る事なかり
しと其 隣家(りんか)の隠士(いんじ)城氏(じやううじ)某(それがし)予(よ)に語(かた)りけるにより
てその草紙(そうし)はいかなる書(ふみ)に侍(はべ)るやと問(と)ひけれ共(ども)其 名(な)を
【注 振り仮名を「しゆ〴〵」としないで「しゆゞ」としている。この表記は62コマ1行目にも見える。】