翻刻
事とおもふは大(おほひ)なる誤(あやまり)なり
一/初(はつ)ものを馳走(ちさう)とあなしも覚(おぼ)ゆれ
は客人(きやくしん)も馳走(ちさう)とすしかれども
初(はつ)ものは何(なに)によらず至極(しごく)ぎんみ
なされば用(もち)ひがたし外(べつ)して木(き)の
子(こ)類(るい)は猶更(なおさら)なりたとへ早(さ)松茸(まつたけ)
たり共(とも)その折(をり)の季候(きこう)によりて
用捨(ようしや)あるべし尤(もつとも)河海(かかい)の初ものは
よく山陸(さんろく)の初(はつ)ものはあしく海鱗(かいりん)
の初(はつ)ものは膏(あぶら)うすく軽(かる)くして
【左丁】
風味(ふうみ)各別(かくへつ)美(び)なり菓菜(このみな)ははし
りは自然(しぜん)あぐ脂(やに)つよきとしるべし
一/遠来(ゑんらい)のち珍物(ちんぶつ)を求得(もとめう)れば唯(ただ)夫(それ)
のみを馳走(ちさう)と心得(こころえ)他(ほか)の魚菜(きよさい)に
心(こゝろ)を用(もち)ひざるは大(おほい)に興(けう)のさむるもの
なり又(また)当時(とうじ)会席(かいせき)料理(れうり)などし
て唯(ただ)異(こと)やうなる取合(とりあひ)を美(よし)として
殊(こと)に盛合(もりあはせ)いたつてわつかにて三箸(みはし)
に足(た)らず其上(そのうへ)厚味(こうみ)なるものは
滞食(もるゝ?)などいひて一菜(いつさひ)もうまき