翻刻
【右丁】
ものあらねは客(きやく)へ対(たい)して失(しつ)
礼(れい)とおもふべし真(しん)の会席(くはいせき)ならば
格別(かくべつ)たなき馳走(ちそう)には必(かな)らずしも
用(もち)【ゆヵ】り事(こと)なかれ或(あか)宗色(そうせう)の雑(さつ)
話(わ)に何(なに)ほど風雅(ふうが)なる面白(おもしろ)き取(とり)
合(あひ)料理(れうり)にても厚味(かうみ)一菜(いつさい)なくては
茶(ちや)もうまく飲(の)めずといはれしが
茶道(さどう)に於(おゐ)てもかくのごとく況(いはん)や
饗饌(けうせん)に於(おゐて)を也
一/料理(れうり)煮方(にかた)に四季(しき)の心得あり
【左丁】
先(まづ)春(はる)冬(ふゆ)はいかにもふつさりと見ゆる
やうに庖丁(はうてう)の心得(こころえ)あるべく夏(なつ)秋(あき)は
すんがりと見ゆるやうに為(なす)べしされば
とて淋(さび)しく少(すく)なきはあしくたとへば
魚菜(きよさい)とも平目(ひらめ)にすれば盛(もり)かた
賑(にき)やかなり竪目(たてめ)なれば清冷(すんがり)と
見ゆる爰(こゝ)を以(もつ)て考(かんが)ふべし強(あなが)ち
竪目(たてめ)平目(ひらめ)と一概(いちがい)にいふにはあらじ
煮方(にたか)加減(かけん)熱(あつ)きかけんの物(もの)は至(し)
極(こく)暖(あたゝ)かにし冷(ひやゝか)なるものはひやゝか