翻刻
【右丁】
なるべし必(かなら)ず夏日(かじつ)なりとも煮(に)
物(もの)さめたるは甚(【はなはヵ】)だ不馳走になる
なり冬(ふゆ)の日(ひ)もこれに准(じゆん)すべし
一/器(うつ)物(□【ものヵ】)いつもより清浄(しやうじ)なるへし異様(ことやう)
なる品(しな)は用ゆべからずこゝに一話(ひとつのはなし)
あり或(ある)豪家(がうか)の商人(あきんど)兼(かね)而(て)珍器(ちんき)
をこのめるゝが出入(ていり)之(の)道具屋(どうぐや)ある
とき長(ながさ)四尺ばかり巾(はゝ)壱尺六七寸
もある広蓋(ひろふた)のごとき器(うつわ)の中央(ちうわう)の
左右(さゆう)に銀(ぎん)の環(くはん)を打(うつ)たりいかなる器(き)
【左丁】
ともしれずといへども惣(そう)梨子自地(なしぢ)に
して蓋(ふた)の内(うち)高蒔絵(たかまきゑ)の結構(けつこう)
環(くはん)ならびに座(ざ)なんど誠(まこと)に手(て)を
尽(つく)したる器物(きぶつ)なれば求(もと)めおきて
珍客(ちんきやく)あらは用ゆべしと秘蔵(ひざう)せしが
原(もと)より諸侯(しよこう)がたに館入(たちいり)する家な
りしがいかなる折(をり)にや去(さ)る諸侯(しよこう)方(がた)
此方(このかた)いらせ給ふ折(をり)からすはや此時(このとき)
こそと此/器(うつわ)を大硯(おほすゞり)ぶたとし組肴(くみさかな)
山のことく積重(つみかさ)ねて御前(ごぜん)へ出(いだ)せしに