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【右ページ上段】
の低地は。何(いづ)れの場所も下水溢(げすゐあふ)れて往来を浸せり。
●日比谷公園一面の湖水となる 日比谷(ひびや)公園は目下地均工事
中なる為め。東北|隅(ぐう)は宛(あた)かも大湖水(だいこすい)の如くなり。濁水(だくすい)混々と流
れて。前の濠中に落ち込める状はいと凄ましかりき。
●神田区 猿楽町、西小川町、美土代町、三崎町、飯田町近辺
は。出水の為(た)め一帯の河となり。一|時(じ)は脛(すね)を没するに至れり。
●日本橋区 濱町河岸も築地辺と同じく同日五時頃に至り二
尺許に及(およ)びしかば。一時は往来(わうらい)するものさへなかりき。
●京橋区 築地南飯田町、柳原町、南小田原町、明石河岸通、
軽子橋付近、築地一丁目、二丁目、木挽町一丁目、二丁目に掛
け。濁水氾濫(だくゐいはんらん)して潮水(てうすゐ)の如くなりしが。就中京橋区役所|及(およ)びそ
の隣地なる京橋警察署(きやうばしけいさつしよ)の付近は膝(ひざ)を没する許りの水となり。一
時舟にて往来(わうらい)したり。又木挽町一丁目の巡査派出所は。床の上
まで浸水(しんすゐ)し。巡査が水中(すゐちう)に立番(たちばん)するを見たりき。
●四谷区 傳馬町一丁目角の濠中へ落る下水の為め土手三間
許り崩壊(ほうくわい)せり又箪笥町より新堀江町に通する道路鮫ケ橋谷町一
二丁目坂町より牛込市ケ谷へ通(つう)ずる津の方坂下等(かみさかしたとう)の低地は何れ
も下水溢(げすゐあふ)れて往来を浸し中には床上に浸水したるものありし。
●麻布区 古川増水して両岸を浸し又我善坊町、谷町、日ケ
窪町、笄(かうがい)町等の低地|何(いづ)れも下水|氾濫(はんらん)して往来(わうらい)を浸し笄橋は殆
んど通行を断せり。
●赤坂区 青山南町、新坂町、仲の町等の低地(ていち)は何(いづ)れも浸水
し。溜池町は溜池(ためいけ)の水溢(みづあふ)れて路上を浸せり。
●小石川区 浸水家屋 (床上に浸水するもの)八十九戸、 (同床
下)三百九十五戸、同空家(どうあきや)廿九戸。其の場所は千川上水の支流
(本郷より小石川指ケ谷町、柳町、初音町、餌差町を経て砲兵(はうへい)
工廠内(こうしようない)を貫流(くわんりう)するもの)に沿ふたる所なり。江戸川(えどがは)は大分増水
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して幾むと陸上に漲溢せむとせり。同川大曲りの処に於て。暴
風雨の最中大鯉(さいちうおほごい) (二尺許り)一|尾(び)往来(わうらい)に飛上(とびあが)りしを。通行人之を
捕獲(ほくわく)して去れりといふ。
●下谷区 入谷、山伏町、北稲荷町は、往来に浸水し。又御成
|街道(あいだう)は四時頃に至り一面の川となり。溝板(みぞいた)を流したり。
●浅草区 神田川の下流にて柳橋と浅草橋との間は。是迄大
雨の折(おり)も河水の漲溢する稀(まれ)なりしに。七日には汎濫して。河岸
に積置きたる物の流失せしもの多く。且つ浅草田圃の水亦汎濫
して。芝崎町、阿部川町、栄久町、冨坂町、北三筋町、東三筋町、
松葉町、清島町辺も一帯に浸水し。冨坂町の新堀端通の如きは。
往来の出水一尺余に及び。低地の家屋は床上に達せんとする所
もありしが。尚ほ一層甚だしかりしは。千束町以北にて。浸水
家屋下の如くにてありき。
千束町三丁目一番地より四番地迄、同二丁目百廿番地より四
百十九番地迄一千余戸一円千束町一丁目にて一珀二十戸、同
二丁目にて廿四戸、新谷町にて二百四十四戸、田町一丁目及
其付近にて百四十八戸。
浅草田圃より千束町及公園地見世物小屋の辺は。一面の出水に
て。多くは畳を上げ家財(かざい)を片付(かたづけ)る等。諸人|狼狽(らうばい)の状大方ならさ
りき。
●本所区 南北割下水付近は。一時下水漲りて。往来(わうらい)に押出し
たり。
又浸水家屋は緑町、林町、菊川町、南北二葉町、亀澤町、三笠
町、若宮町多く。緑町の如きは浸水床上に及びぬ。
●溺死者 本所区相生町五丁目五番地荒物商小宮新八郎 (三
十七)は浅草区北松山町三十七番地波尾多三郎及び千束町二丁
目五十八番地村越庄兵衛方へ水見舞(みづみまひ)に赴き。馳走酒(ちさうざけ)に酩酊(めいてい)して
【左ページ、挿画】