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部点火せざりしとなり。
〇市内電話線の障碍
電話交換局にては。暴風雨に際し。豫め重なる線路に予防を加
へたれば。電柱(でんちう)の倒れしもの多からさりしも。断線混線等の障(しやう)
碍(がい)は。至(いた)る所甚た多く。不通となりたるもの千二百余名の多き
に至(いた)れり。因て同局は七日の夜以来修理工事に従事中なりしが。
八日中には大概開通するに至りたり。
〇品川方面
●被害総数 品川警察署にて調査せし総被害数を聞くに。住
家全潰二戸、空家同八戸、住家半潰一戸、同破損五百八十五戸、
空家半潰七戸、床上浸水住家百九十七戸、床下同七百八十八戸、
空家床下十四戸、田地同二十九町八反八畝歩、畑同百九十五町
三反歩余、宅地同百十三反畝歩、山林原野同四十二町九反、堤
防破壊七ケ所延長四十四間、石垣崩壊七ケ所、墻塀破損五十三、
樹木転倒五十二、六郷川水量最高点一丈六尺等又た大井村水上
分署の調査は石崖破損十五ケ所延長五十九間、堤防破損二十二
ケ所延長四百八十八間三尺、沈没船四艘、船舶破損一艘、沿岸建
物全潰一ケ所、桟橋破損二十二ケ所、同流失一ケ所等なり。
●羽田村海に変ず 坂本品川警察署長は七日午後六時頃。六
郷川|増水(ぞうすゐ)して。諸方の堤防破損し。長さ五間以上十五六間に達
するもの数ケ所に及(およ)びしとの急報(きふはう)に接(せつ)したるより。直に非番(ひばん)召(せう)
集(しふ)をなし。橋本警部と共に署員を指揮(しき)して現場(げんじやう)に赴たり。大井
村分署長も前日以来|気象台(きしやうだい)よりの報知(ほうち)に依り。大に沿岸(えんがん)を警戒
し。且巡査四名をして多摩川方面に向け出張せしめたるに。間
もなく堤防(ていばう)の決壊(けつくわい)せし通知ありしかば。直ちに署員(しよゐん)を召集(せうしふ)し。大
森村|居木橋際(いるきばしぎは)まで車を飛して駈付(かけつ)けしに。早や看渡す限り一面
大海の如き有様(ありさま)となりたれば。余義(よぎ)なく徒歩して羽田に達し。
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品川署員と水陸(すゐりく)力を協(あは)せ。村役場員及び村民を督し。水防(すゐばう)に尽
力したるが。恰も同堤防は過般来東京府庁に於て修繕中にて。
石、板等夥多積みあるより。府庁(ふてう)の許可(きよか)を得て之を借受(かりう)け。村
民と共に水防を為せし故其甲斐ありて。午前三時頃迄には漸く
四ケ所の堤防(ていばう)を喰止(くひと)めしが。混雑(こんざつ)実に名状す可らざりき。村民
多くは屢々|水害(すゐがい)に遭遇(さうぐう)せる為め。左迄|騒動(さうどう)せず。濁水氾濫(だくすゐはんらん)して
道路一面大海と変じ。甚しきは九尺余の増水にて屋上を浸すに
至れども。平気(へいき)にて二階などに睡(ねむ)り居(を)りたるには。人々|呆然(ばうぜん)た
りしといふ。其の後に至り追々減水の模様ある故。両署長共に
警戒方を指揮し置きて。引上げたり。
●穴守稲荷社水中に没す 羽田(はねだ)の穴守稲荷社(あなもりいなりしや)は。地盤(ぢばん)の低き
為めに同所一面浸水し。近傍何れも床上に達せざるはなく。唯
た海水浴(かいすゐよく)要館のみは。地盤高(ぢばんたか)き故漸く床下(ゆかした)に達せしのみなりし
が。水のはけ場なきより。余義なく七日午後五時頃干潮を待ち
て。社畔の堤防を破り。其水を海中へ落せしと云ふ。
●沈没船二艘 神奈川県橘樹郡大師河原千八百八十一番地長
谷川金太郎|所有(しよいう)の大荷足(おほにたり)神明丸は。日本橋区小網町の静岡回漕
店より雑貨(ざつくわ)五百五十五個を積みて。品川沖碇泊の文丸に運送中
当日午後二時頃第四|砲台際(はうだいぎは)にて。風浪(ふうらう)の為め船体(せんたい)を石崖に突当
て。微塵(みぢん)となりて流失せしより。乗組員(のりくみゐん)は砲台に泳着(およぎつ)き。漸く
一命を取止めたりと。次は日本橋区小網町末廣河岸三番地今寺
庄藏所有の大荷足春宮丸は。同町の回漕店八幡屋より雑貨を載
せ。品川沖に碇泊(ていはく)し居たる海龍丸(かいりうまる)へ運送する途次。是れ亦第四
砲台際にて船体に破損(はそん)を生じ。瞬(またゝ)く間に沈没(ちんぼつ)したるが。乗組員
は辛うじて無事なるを得たり。
●海苔粗朶(のりそだ)の被害 暴風雨にて東京湾内に於ける海苔粗朶は
大半流失(たいはんりうしつ)し。羽根田大森付近殊に甚だしき由にて。其|損害(そんがい)は数
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千円に上るべしといふ。同所は元来|海苔採収(のりさいしう)の利益あるより。近
年益借区を拡張し。本年の如きは一層|広大(くわうだい)にし。且|粗朶(そだ)の如き
も非常(ひじやう)に高価(かうか)なるに至りしより。随て損害も大なる由聞く。品
川湾海苔粗朶が。今回の如き被害を受けたるは十年以来無き事
なりと。
〇千住方面
●河原田甫の通行止め 千住荒川筋は八日午前四時三十分頃
より俄(にわか)に増水し。河原田甫の如きは。一|面(めん)の水(みづ)となりて一時通
行止りたれば。同八時頃より官船六艘を出して往復せしめ。非
番巡査水防夫等は。其|近傍(きんばう)に詰切(つめき)りて警戒中(けいかいちう)なるが、午前十一
時には。千住大橋際にて水量五尺八寸なりき。
●溺死せんとす 八日朝七時頃越ケ谷町二百四十番地相田彌
七 (廿七)と浅草区森下町廿九番地石川米三 (二十七)の両人は。
荷車を挽(ひ)きし侭河原田甫にて。アワヤ溺死(できし)せんとせしが。幸ひ
に救助せらる。
●蘆中に一夜を明す 栃木県河内郡水穂村鮎澤長三郎 (五十
九)は暴風雨の当日煉瓦二千六百本を搭載して。千住大橋際ま
で来し時。暴風(ばうふう)に出会(いであ)ひ。其舟沈没せしも。僅(わづ)かに傍の蘆洲に
入りて。材木(ざいもく)に掴(つか)まり一命を全ふせしが。水嵩(みづかさ)の為め陸地(りくち)に寄
る能はず。八日九時頃漸く千住一丁目八百二十九番地恩田某に
救助されたり。
〇新宿付近
●豊多摩郡の被害 は家屋全潰十四戸、空家全潰十七戸、空
家半潰四戸、家屋破損二十六戸、堤防崩壊一ケ所、電柱倒れ七
本、電話線切断二ケ所、墻壁板塀破損七十六ケ所、樹木倒れ三
百五十六本、新宿警察署構内の警鐘。暴風に吹飛されて。人民
控所の屋上に落ちたるも負傷者なし。大久保村戸山学校内射的
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場及び同構内巡査派出所ともに全潰す。
〇南足立郡其の他の被害
●南足立郡の被害 は潰家三戸、破損七十三戸、便所の破損
十六ケ所、倒木六十六本、空家破損四戸、煙突破損五ケ所、其
他被害少からさりき。●南葛飾郡 潰家一戸、空家破損七戸、
住家破損百三十九戸、浸水家屋四戸、倒木三百六十七本。●北
豊島郡 潰家六戸、浸水家屋一戸、倒家八十二本。
〇府下諸川の増水
今回の風雨(ふうゝ)にて。府下の諸川(しよせん)は漸々|増水(ぞうすゐ)せり。今其筋に到達し
たる当時の電報(でんぱう)を列挙(れつきよ)すれば左の如し。
●七日午前八時四十五分 八王子署発
浅川増水九尺埼玉街道及び五日市街道の通行止る尚ほ増水の
模様
同日午前九時四十五分 青梅署発
午前九時十分多摩川増水二尺八寸五分尚ほ増水の見込
同日午前九時五十分 千住署発
管内荒川筋三尺余増水尚ほ増水の模様なり
同日午前十時三十分 品川署発
只今多摩川矢口渡船場にて八尺六郷橋にて六尺の増水なり危
険の虞れなし
同日午前十一時 府中署発
府中町地先多摩川平水より四尺五寸増水尚ほ追々増水の模様
なり渡船は何れも止む
七日午後四時十五分 八王子署発
浅川今朝より尚ほ一尺を増す
同日午後四時 青梅署発
多摩川五尺五寸の増水となる