翻刻
【右丁】
《割書: 此川(このかは)の流(なかれ)のすへは とこま(何処迄也)て布(ぬの)を流(なか)さは海(うみ)まて》
《割書:又云| あの子(こ)は《割書:ヤレ》紅屋(へにや)の子(こ)《割書:ヤレ》いつもかはらぬ紅絞(へしほ)りさらし手(て)ぬくひ| いつ染(そめ)たさむひ瀬(せ)につくもさらすも皆(みな)おわかしゆか見(み)たさに| 御若衆(おわかしゆ)か見(み)たいまゝとて春(はる)の月夜(つきよ)を思(おも)ひそよ》
《割書:又云| 鎌倉(かまくら)の鶴(つる)か二三 羽(は)まひ日(にち)ひにち通(かよ)ひやる山越(やまこえ)て山(やま)越(こえ)て| こゝな川瀬(かはせ)に何(なに)の用(よう)さらしあけたうつくしき布(ぬの)とおわか| しゆ見たさに》
《割書:此唄(このうた)ひもの其古(そのいにしへ)をおもひあはするに足(た)れり附(つけ)て云(いふ)此地(このち)より西 府中(ふちゆう)まての|間(あひた)に染屋邑(そめやむら)と称(しよう)する地(ち)あり是(これ)も古(いにしへ)紺(こん)かきの家(いへ)多(おほ)くありて調布(つきのぬの)を染(そめ)た|りし故(ゆゑ)に此名(このな)あるならん按(あんす)るに東鑑(あつまかかみ)建久(けんきう)六年七月廿八日の条下(てうか)に武蔵国(むさしのくに)|染殿別当事(そめとのへつたうのこと)安房上野局(あはかうつけのつほね)に仰付(おほせつけ)らる糸所別当(いとところへつたう)の事(こと)は近瀬局(ちかせのつほね)これを奉(うけたまは)ると|あるも此辺(このへん)の事(こと)をいふならん歟(か)又云 和名抄(わみやうしやう)白絲布(しらいとのぬの)を天都久利乃沼乃(てつくりのぬの)|と訓(くん)す同書(とうしよ)に今(いま)按(あんする)に俗(そく)に手作布(てつくりのぬの)の三 字(し)を用(もち)ゆると云々 調布(つきのぬの)は和名(わみやう)|抄(しやう)に豆岐(つき)の沼能(ぬの)とありて貢(みつき)になす布(ぬの)の事(こと)をいへり》
布多天神(ふたてんしん)社 上布多駅舎(かみふたえきしや)の辺(へん)より右の方四丁はかりにあり別当(へつたう)は
真言宗(しんこんしう)にして広福山(くわうふくさん)栄法寺(えいほふし)と号(かう)す《割書:浅尾王禅(あさをわうせん)|寺(し)に属(そく)す》祭礼(さいれい)は隔年(かくねん)
九月二十五日に修行(しゆきやう)す当社(たうしや)祭神(さいしん)詳(つまひらか)ならす今(いま)菅神(かんしん)を相殿(あひてん)に
勧請(くわんしやう)して二 座(さ)とす当社(たうしや)昔(むかし)は多磨川(たまかは)の岸頭(かんとう)にありしか洪水(こうすゐ)の
【枠外】 三ノ百五十四
【左丁】
難(なん)に罹(かゝ)るの後(のち)今(いま)の地(ち)へ遷(うつ)すとあり《割書:今(いま)も其地(そのち)に元天神(もとてんしん)と称(しよう)して|小祠(しやうし)を存(そん)せりといへり》
延喜式神名記曰 武蔵国多磨郡
布田天神社云々
虎柏神社(とらかしはのしんしや) 同所 北(きた)の方十丁 計(はかり)を隔(へた)てゝ佐須村(さすむら)にあり《割書:佐須(さす)は古(いにしへ)|当社(たうしや)の神(かん)》
《割書:主(ぬし)の姓(せい)なりしを後(のち)地名(ちめい)に呼(よび)たりしとなり今(いま)も|その遠裔(ゑんえい)此地(このち)の里正(りせい)にして連綿(れんめん)たり》社前(しやせん)に古松(こしよう)二株(にちゆう)鬱叢(うつさう)と
聳(そひえ)たり九月十三日を以(もつ)て祭祀(さいし)の辰(しん)とす
武蔵国風土記曰 武蔵国多磨郡狛江郷
虎柏神社 圭田七十三束 所祭大歳御祖神也
崇峻天皇二年己酉八月始祭事有之云云
延喜式神名記曰 武蔵国多磨郡
虎柏神社云云
《割書:按(あんする)に深大寺縁起(しんたいしえんき)に満功(まんかう)上人の祖母(そほ)の名(な)虎(とら)と祖父(そふ)の住(すみ)たりし柏野(かしはの)の|里(さと)の名(な)とによりて虎柏(とらかしは)の神社(しんしや)ありといへるは其(その)是非(せひ)をしらす柏字 古(いにしへ)は犬(いぬ)に|从(したが)ひ狛に作(つく)りたるを後世(こうせい)字形(しきやう)相似(あひに)たるを以(もつて)今(いま)は木(き)に从(したが)ひ柏に誤(あやま)れるならん|歟(か)又 当社(たうしや)の南(みなみ)にある所(ところ)の耕田(かうてん)は古(いにしへ)社領(しやれう)なりしとて今(いま)も宮田(みやた)と称(とな)へたり|風土記(ふとき)に挙(あく)る七十三 束(そく)の圭田(けいてん)是(これ)ならん歟(か)》
虎柏山(こはくさん)祗園寺(きおんし) 同所三丁はかり東(ひかし)の方(かた)にあり日光院(にいくわうゐん)と号(かう)す天台(てんたい)
宗(しう)深大寺(しんたいし)に属(そく)せり当寺(たうし)は天平勝宝(てんへいしようはう)二年庚寅 深大寺(しんたいし)の満功(まんかう)
上人 開創(かいさう)する所(ところ)の佛域(ふついき)なりといへり本尊(ほんそん)には立像(りふさう)二尺計の弥陀(みた)