翻刻
【右丁】
桑を喰切(くひき)らざる内(うち)には責(せめ)かけ〳〵ふり掛(か)くべし此 責(せめ)桑 不足(ふそく)なる時は蚕 不揃(ふそろひ)
になるべしかくするうちに先(さき)に眠(ねふり)し蚕は上(うへ)なる皮(かは)を脱出(ぬぎいづ)る《割書:是を衣(きぬ)を|ぬぐといふ》すでに
衣(きぬ)を脱(ぬ)ぎ桑のうへに起(おこ)り上(あが)る《割書:是をある国にては|うきともいふ》此 起(おこ)りし蚕見ヘば直(じき)に桑をふり止(やむ)
べし此時 大方(おほかた)遅(おそ)き蚕ありとて此 責桑(せめくわ)をふり掛(かく)れば先(さき)に起上(おきあがり)りし蚕
桑(くは)喰(く)ふ頃(ころ)遅(おそ)き蚕は漸(やう〳〵)居眠(ゐねふり)になるを待兼(まちかね)桑を止(やめ)る故 先(さき)に起(おこ)りし蚕弐三
度(ど)も責桑(せめくわ)を喰(く)ひ肝心(かんじん)の喰盛(くひざかり)の頃(ころ)若(わか)き蚕の為(ため)に食止(しよくど)めに逢(あ)ふ故(ゆへ)大きに
痛(いた)むべし四 度(ど)の起俯(おきふし)皆(みな)此止め桑の間違(まちが)ひより蚕に大小(だいせう)出来(でき)色々(いろ〳〵)の病(やま)ひ
出(いづ)る至(いたつ)て大切(たいせつ)の事なり此時ある国(くに)にては蚕網(かひこあみ)といふ物(もの)をつかふなり此 網(あみ)の数(かず)
四ツ程 用意(ようゐ)して蚕の大さに見合(みあはせ)後程(のちほど)目(め)あらきを用(もち)ゆ此 網(あみ)の遣(つか)ひ方(かた)は蚕 過(くは)
半(はん)眠(ねふ)りし頃(ころ)蚕の上(うへ)に網(あみ)を置き桑(くわ)の葉(は)は網(あみ)の目(め)を洩(もら)ぬ程に拵(こしら)へあみのうへに
ふりかけ置べし斯(かく)のごとくすれば眠(ねふ)りし蚕は下(し)たにすくみ居(ゐ)る眠(ねふら)ざる
【左丁】
若(わか)き蚕は網(あみ)の目(め)を潜(くゞ)り上(うへ)なる桑に
たかり桑を喰(くふ)なり此時 網(あみ)の四方(しはう)を持(もち)
上(うへ)にあがりし若(わか)き蚕を外(ほか)の器(うつは)へとり
責(せめ)かけ〳〵桑を喰(くは)すべし下(した)に残りし
眠蚕(ねふりこ)は少 暖(あたゝか)なる高き所へ《振り仮名:上ケ|あげ》起(おこ)り上る
様にすべし斯(かく)のごとくする時はおそき
蚕も早(はや)き蚕も一調(いつてう)に能(よく)揃(そろ)ふべし
是 秘伝(ひでん)也又 網(あみ)なき国は責(せめ)桑のとき
前(まへ)にいふごとく眠(ねふ)りし蚕 早(はや)うき上らは
直(じき)に葉をふり止(や)め何の器(うつは)にてもその
蚕のうへに藁(わら)の蘂(しべ)などを四五本 見合(みあはせ)に
【左丁図中】
蚕網(かひこあみ)の図(づ)
一 三
二 四