翻刻
【右丁】
こと肝要(かんえう)なり何(いづ)れのとしにても八十八 夜(や)前後(せんご)には蚕(かひこ)生(うま)れ出るなり此とき
おそきとて日(ひ)の照(て)る所に置(を)き或(あるひ)は懐中(くはいちう)に入又は夜着(よぎ)蒲団(ふとん)につゝみあるひは
火(ひ)の近所(きんしよ)に置き急(きう)に種を暖(あたゝ)め無理(むり)に出さんとする事 甚(はなはた)悪(あし)し天性(てんせい)自然(しぜん)に
まかせて種(たね)に皆(みな)青(あを)みつき蚕少々出かゝらば昼(ひる)の九ツ時 日(ひ)の暖(あたゝか)なる時を見合(みあは)せ
種(たね)を取出(とりだ)し白紙(しらかみ)五六 枚(まい)程にて是をつゝみ又其 上(うへ)を抜綿出(ぬきでわた)やうの和(やは)らか
なる物にてざつとつゝみ或は皮籠(かはご)又 骨柳(こり)わらだ様の物に入少し火気(くわき)の行(ゆく)
暖(あたゝか)なる所へ上けをくべし夫(それ)より一 日(にち)に弐三 度(と)づゝつゝみし種をとり広(ひろ)げ
意気(いき)を入又もとのごとくつゝみ上け置べし此時 水気(すいき)に触(ふる)ること悪(あし)し若(もし)
雨天(うてん)ならば家内(かない)に火(ひ)を焼(た)き少し温(あたゝか)にすべし薪(たきゞ)は松(まつ)桑(くわ)の類(るい)よし悪(あし)き
匂(にほ)ひある木 焼(たく)べからず又 近所(きんじよ)にて煙草(たばこ)呑(の)むべからず取扱(とりあつか)ふ事も悪(わろ)し蚕(かひこ)を
手掛(てがく)る度毎(たびごと)に手を洗(あらひ)清浄(しやう〴〵)にすべし諸道具(しよだうぐ)は蚕出る前(まへ)に掃除(さうぢ)して燥(かはかし)置べし
【左丁】
最初(さいしよ)椹(ふるべ)を以(もつ)て蚕(かひこ)掃落(はきおとす)仕法(しはふ)の事
蚕(かひこ)は初(はじ)めより桑葉(くわは)をもって養(やしな)ふものに
極(きはま)れとも春蚕(はるかひこ)出る時節(じせつ)寒国(かんこく)にては未(いまだ)
桑(くわ)の芽(め)出ざる年(とし)あり其時は拠(よぎ)なく
桑(くわ)の花(はな)を取(とり)蚕に喰(くは)す所あり元来(ぐはんらい)
椹(ふるべ)といふは桑の実(み)にて種(たね)になるをいふ
蚕の食(しよく)するは桑のあだ花(ばな)としるべし
最初(さいしよ)蚕 掃落(はきおと)す時 手(て)を能(よく)洗(あら)ひ彼 桑花(くわはな)
の露(つゆ)なく能(よく)燥(かは)きたるを手(て)にて揉(もみ)少し
細(こまか)にし是を能(よく)篩(をと)し又 箕(み)にてごみを
去(さ)り種(たね)壱 枚(まい)の蚕に椹(ふなべ)五六 合(がう)斗 用意(ようゐ)
【左丁図中】
椹(ふなべ)
とる
図
順礼
に
いてす
桑つむ
むすめ哉
蓼太#1