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【右】
されぞ世間(せけん)にあらゆる事物人(ものごとひと)の目(め)に触(ふ)れ耳(みゝ)に触(ふ)
れ心(こゝろ)に感(かん)ずるものとして一(いつ)も天然(てんねん)の理(り)に合(あ)はざ
るはなく一事一物各箇(いちじいつぶつそれ〴〵)に皆其道理(みなそのだうり)を具(そな)ふる中(なか)に
人力(じんりよく)を将(もつ)て之(これ)を取除(とりのぞ)き或(あるひ)は変更(へんかう)することならざる
者地震暴風淫雨(ものぢしんおふかせながあめ)の如(ごと)きは如何(いかん)ともする能(あた)はずさ
れど戦争飢饉火災傅染病(いくさきゝんくわじでんせんびやう)の如(ごと)きに於(おい)ては各自適(めい〳〵それ)
当(だけ)の豫防(よぼう)をなし其方法(そのしかた)を施(ほどこ)さず此災害(このわざわひ)を免(のが)るゝ
のとを得(う)べし抑此等(それ〳〵それら)の災害(わざはひ)も固(もと)より天然(てんねん)の道理(だうり)
を踏(ふ)みて来(て)るものなれば吾人(われ〳〵)が之(これ)を防(ふせ)ぎ制(せい)する
にも亦天然(またてんねん)の道理(だうり)に原(おとづ)き力(ちから)を尽(つく)さゞるべからず
【左】
そをなさずして徒(いたづ)らに神仏(しんぶつ)をのみ祈請(きせい)するとも
決(けつ)して免(のが)るべきものにはあらず
され災害(わざはひ)を免(のが)るゝに神仏(しんぶつ)の助力(たすけ)を仰(あふ)では勿論(もちろん)よ
きことなれど己(おのれ)も力(ちから)を尽(つく)して其災害(そのわざはひ)の由(よつ)て来(く)る道理(だうり)に対(たい)して十分(じやうぶん)に打(う)ち消(け)す方法(しかた)をなさゞれず
神仏(しんぶつ)とても加護(かご)する能(あた)はず例(たと)へず朝夕神仏(あさゆふしんぶつ)に參(さん)
詣(けい)し丹精凝(たんせいこ)めて信仰(しんかう)なし福徳利益(ふくとくりえき)を祈(いの)るとも農(のう)
民(みん)にして耕作(かうさく)を力(つと)めず商人(しやうにん)にして算勘(かんぢやう)を怠(おこた)ると
きす神仏(しんぶつ)も之(これ)に福利(ふくり)を與(あた)ふる能(あた)はず依然(いぜん)として
貧賤(ひんばふ)の人(ひと)なるべし是(こ)れ其福利(そのふくり)を獲(え)らるべき道理(だうり)