東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 5 江戸名所図会

江戸名所図会 20巻 巻之16 - 翻刻

江戸名所図会 20巻 巻之16 - ページ 16

ページ: 16

翻刻

【右丁】            鋳師武州深川              大田近江大椽【掾】藤原正次  石枕(いしのまくら)《割書:坊中(はうちゆう)東中谷(ひかしなかたに)明王院(みやうわうゐん)にあり庭中(ていちゆう)に小(ちいさ)き池(いけ)あり是を姥(うは)か池(いけ)と号(かう)すまた当寺の什宝(しうはう)に此石の枕|あり伝説(てんせつ)は文明(ふんめい)年中 道興准后回国雑記(たうこうしゆこうくわいこくさつき)に出たる文章(ふんしやう)をこゝに記(しる)す頗(すこふ)る俗伝(そくてん)と異(こと)なり旧記(きうき)たる》  《割書:をもつて左(さ)に挙(あけ)て其 伝(つた)へ|来(きた)る事の久(ひさ)しきをしらしむ》   回国雑記云 此里のほとりに石枕(いしのまくら)といへるふしきなる石あり其故(そのゆゑ)を   尋(たつね)けれは中頃(なかころ)の事にやありけむなまさふらひ侍り娘(むすめ)を一人(ひとり)持(もち)はへり   き容色(ようしよく)おほかたよのつねなりけりかの父母(ちゝはゝ)娘(むすめ)を遊女(あそひ)にしたて道(みち)ゆき   ひとに出(いて)むかひかの石(いし)のほとりにいさなひて交会(かうくわい)のふせひを事とし   はへりけり兼(かね)てよりあいつの事(こと)なれは折(おり)をはからひて彼(かの)父母(ちゝはゝ)枕(まくら)のほと   りに立寄(たちより)てともねしたりける男(おのこ)のかうへをうちくたきて衣装(いしやう)以下(いけ)   の物(もの)を取(とり)て一生(いつしやう)を送(をく)り侍りきさるほとに彼娘(かのむすめ)つや〳〵思ひけるやう   あなあさましや幾程(いくほと)もなき世(よ)の中(なか)にかゝるふしきの業(わさ)をして父母(ちゝはゝ)   もろともに悪趣(あくしゆ)に堕(た)して永劫沈淪(やうかうちんりん)せむ事のかなしさ先非(せんひ)に置(をき)て   は悔(くひ)ても益(ゑき)なし是(これ)より後(のち)の事さま〳〵工夫(くふう)して所詮(しよせん)我(われ)父母(ちゝはゝ)を出(た)しぬ 【左丁】  楊枝店(やうしみせ) 境内(けいたい)楊枝(やうし)を 鬻(ひさ)く店(みせ)甚(はなはた) 多(おほ)し柳屋(やなきや)と 称(しよう)するものを もて本源(ほんけん)とす されと今(いま)は其(その) 家号(いへな)を唱(とな)ふる もの多(おほ)く竟(つい)に 此地(このち)の名産(めいさん)とは なれり僧祗律(そうきりつ)【祇】 に楊枝(やうし)に五(いつ)ッの 利(り)ある事を載(のせ)て       云く 一に口 苦(にか)からす 二に口 臭(くさ)からす 三に風(かせ)を除(のそ)き 四に熱(ねつ)を去(さ)り 五に痰(たん)をのそく      とあり 【図】 【暖簾】 柳屋 【看板】    本やなき屋 御やうし所