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【右頁】
五郎を再三訪づれるのだつた。
”清香拙者が想つてゐる気持ちが解らな
いのか綱五郎殿も許してゐるぢやないか”
”そんな御無理なことを仰言らないで下さ
い”
平九郎が無体の戀慕に清香は振りきり逃がれん
ともがいたが相手はなか〳〵離さない。
突然二人が中へ割つて入つた武士があつた。
それわ清香の家に急ぐ途中の傳次郎であつ
た。
”誰かと思つたらこの間の小伜か”
”己れ浪人清香をどうする”
いきなり平九郎に斬つてかゝる。
”よし望みとあらば相手になつてや
る”
一刀抜くや斬りむすんだがやゝともすると
傳次郎が受刀だつた。
危いと見て清香は助けを求めに走つた。
【左頁】
◇
その世!戀に酔ふ男女は糺の森につきぬ語
ひに夜の更けるも忘れて居た。
”澄江殿若し拙者がこの森で誰かに殺さ
れる様なことがあればそなたは何
んとなされますか”
”その時は私は生きては居りませ
ぬ”
佑之助は唯その一言がうれしかつた。
◇
平九郎は仲間を伴ない清香の家をおそうた。
”おい綱五郎‼清香が承知してゐるなどと金
だけ取つてそれでことがすむと思ふか今夜
は清香をもらつて歸るぞ”
”それわあんまり御無理な”
”ヱイ邪魔立てするな”
平九郎が斬り下す一刀に綱五郎は血煙
上げて倒れた。