翻刻
【右頁】
ものは是(これ)を用(もち)ひ不可(ふか、ヨカラヌ)なるものは戒(いましめ)て是を用ひず世人(せじん、ヨノヒト)犀角的利亜加(さいかくてりあか)の
類(るい)をも其/主治(しゆち)の当否(とうひ、アタルヤイナヤ)を知ず漫(みだり)に用ひて害(がい)を招(まね)くは何事そや病(やまい)に
寒熱虚実(かんねつきよじつ)あり薬(くすり)に補瀉温涼(ほしやうんりやう、ヲギナヒクダスアタゝメヒヤス)あり一既(いちがい)に痘に宜(よろし)となすは炎暑(ゑんしよ)より
綿(めんい、ワタイレ)を抜(にく)し温煖(うんだん、アタゝカキモノ)を茹(くらふ)が如く厳(げん)寒に単衣(たんい、ヒトヱ)を着し冷水(れいすい、ヒヤミヅ)を飲(のむ)が如し
その宜きにあらざるは辨(べん)を費(ついやす)に及ずといへ共此等の理獨愚俗(りひとりぐぞく)の惑(まどへ)る
のみならず醫(い)も亦/或(あるい)は是を了知(りやうち、サトル)せず参茋犀角(じんぎさいかく)を合投(あわせとう)じ薬(やく)
性(せい)の温涼(うんりよう、アタゝムルヒヤス)を辨(べん)ぜさるに至るは考(かんが)ひえざるの甚しきなり吾(わが)家にては
的利亜加(てりあか)は痘科無用(とうくわむよう)の薬なるを早くより辨知(べんち、ワキマヘシル)すと雖(いへ)とも世俗(せぞく)
専(もつはら)これを用るを以て其方をも集録(しうろく、アツメシルス)する事三十餘方(よほう)に至る
まして其/他有用(たうよう)のものに於(おい)ては集録せずと云事なし獨種痘(ひとりしゆとう)
【左頁】
諸法(しよほう)の如きは損(そん)ありて益(ゑき)なきを以て深(ふか)く門弟子等(もんていしら)をも戒(いまし)めて
敢(あへ)て施(ほとこ)し行(おこな)いしめず然るを世人/或(あるひ)は予(よ)を評(ひゆ)してその業(ぎよう)に害(がい)
あるを以て誹謗(ひほう、ソシル)すといひ或は其/術(じゆつ)を羨(うらや)み妬(そね)むといふ殊(こと)に知らず彼徒(かれら)の
説実(せつじつ)に是/良法(りようほう、ヨキ)ならば予に亦これを施(ほどこ)し行(おこな)はんのみ何そ他(た)人の業(ぎよう)を
防(さまた)げんや全(まつた)く其或は再(さい、フタゝビ)痘(とう)を發(はつ)し或は驚癇(きようかん)となりて死ぬ(し)に至るもの
多(おほき)を以て敢(あへ)て行(おこな)はざるなり抑牛痘(そも〳〵ぎうとう)の一術原(いちじゆつもと)これ愚民(ぐみん)を煽惑(せんわく、マドハス)
するの妖法(ようほう、アヤシキワザ)にして我 邦(にく)の人に施(ほどこ)すべき術にあらず西洋夷狄(いてき)は
禽獣(きんじう、トリケモノ)に異(ことな)る事なく飲食風土(いんしよくふうど、ノミクヒイヤウキ)もとより同(おなじ)からず肌膚(きふ、ハダヱ)も亦/犬馬(けんば、イヌムマ)に
近(ちか)し故に痘毒(とうどく)も自然他症(しぜんたしよう)と成(なり)て皮表(ひひよう、カワノソト)に発して害(がい)をなす事/少(すくな)し
且(かつ)西洋もとより痘の流行(りうこう、ハヤル)稀(まれ)なり或は十数(じうすう)年にして一発(いつはつ)す