翻刻
誠にあやしげなり四方|濛々(モウ〳〵)として雲山の腰にたれ山
半腹より上は峯あらはれたり雨とも見へず風になる
とも覚へず我年来かくのごとき天気を見ずと大に
あやしむ此時廣嶋氏考て曰是は雲のたるゝにあらず
地気の上升するならん予幼年のとき父子聞ける事
有地気の上升するは地震の徴(シルシ)なりと暫時も猶予(ユウヨ)有
べからずと急ぎ旅宿に帰り主に其由をつげ此地後は山
前は海にして甚|危(アヤウ)し又来るとも暫時外の地にのがれん
と人をして荷物など先へ送らせそこ〳〵に支度して
立出ぬ道の程四里計も行とおもひしが山中にて果し
て大地震せり地は浪のうつことく揺(ユリ)て大木など枝み
な地を打ふしまろびながら漸にのがれて去りぬ此時|小(ヲ)
木(ギ)の湊は山崩れ堂塔は倒れ潮(ウシホ)漲(ミナギリ)て舎屋(イヘ)咸(ミナ)海に入
大きなる岩海より涌出たりそれより毎日小動して翌
年六月に漸々止たりとなん其後同国金山にいたりし
時去る地震には定めし穴も潰(ツブ)れ人も損ぜしにやと